mizutoriのよみもの
シリーズ「mizutori」とは... 【第三十四話】
第三十四話海を越えて届くもの mizutoriには、 時々、海外からも商品についてのお問い合わせをいただきます。 現在は自社のオンラインショップで海外配送にも対応していますが、 十数年前までは、突然いただく一通のメールから、 海の向こうのお客様とのやり取りが始まりました。 『下駄が欲しい』ということだけはわかる、 翻訳機を使った少しぎこちない日本語でのメッセージ。 あるいは、自国語で書かれた文章。 私たちも翻訳機を駆使しながら、 どうにかお気持ちをくみとってこちらもぎこちない英語でご返信していました。 そうしたやり取りの中で、 海外のお客様から修理についてのお問い合わせをいただくこともありました。 日本まで送るのは大変なので、 自分で直す方法を教えてほしい、という内容です。 外国のホームセンターでも手に入りそうな道具を思い浮かべながら、 簡単な修理方法を文章でお伝えしていました。 どの方も、 直しながら大切に履き続けたい、 という想いでとても熱心に聞いてくださいました。 その想いに応えたい一心で、私たちもお返事を書いていました。...
シリーズ「mizutori」とは... 【第三十三話】
第三十三話つくる、リズム 朝、工房に入ると、 それぞれが自分の持ち場につき、 いつもの道具を手に取ります。 すぐに作業は始められる。 けれど、冬休みの前とは、少し違う。 連休明け特有の、あの感覚。 下駄づくりも同じ。 力の加減や、 間の取り方を確かめながら、 手が、少しずつ 仕事のリズムに戻っていきます。 長期の休みが明けると、 体を元のテンポに戻すまでに、 どうしても少し時間がかかります。 頭では分かっていても、 手や体は正直で、 無理をすれば、そのズレは仕上がりに表れてしまいます。 下駄づくりは、 丁寧さとスピード感の、 どちらも欠かせない仕事です。 丁寧に向き合うことは大切です。 けれど、丁寧すぎることで...
シリーズ「mizutori」とは... 【第三十二話】
第三十二話晴れの日の足元に
新しい年が始まりました。お正月ムードから少しずつ日常へと戻っていくなかで、この一年をどんな歩みで重ねていくのか、そんなことを思いながら、mizutoriの2026年がスタートしています。
今年も「よみもの」を通して、履物ひとつひとつに宿る温もりと物語を、静かに、そして確かにお届けしていけたらと思います。
年が明けてまもなく、姪が母校で行われた「二十歳の集い」に出席しました。
二十歳を祝う節目の日。母親から譲り受けた艶やかな晴れ着に身を包み、友人たちと再会できる、大切な一日です。
準備を進めるなかで、彼女がいちばん気にしていたのは「当日、ちゃんと歩けるかどうか」でした。
姪は、ヨチヨチ歩きができるようになった頃からmizutoriの下駄を履いて育ちました。成長に合わせてサイズを変えながら、日常のなかで、自然と下駄に親しんできた一人です。
だからこそ、履き慣れない貸衣装の草履で足が痛くなってしまわないか、早く疲れてしまわないか、少し心配している様子でした。
卒業後、それぞれの道を進んでいる友人たちと、晴れ着で神社へお参りをし、街を歩き、写真を撮り、久しぶりの再会を思いきり楽しみたい。
その大切な一日だからこそ、履き心地に不安のない履物を選びたい。そう考えて、姪自身が選んだのがmizutoriの下駄でした。
本来、和装のフォーマルな場では、金襴などが施された、かかとが5㎝程の草履が一般的です。木製の下駄は音が鳴ることもあり、どちらかといえばカジュアルな履物とされています。
そうした考え方もあるため、こちらからあえてmizutoriの下駄を勧めることはしませんでした。それでも、晴れの日の足元として選んでもらえたことは、正直、とても嬉しい出来事でした。
当日。姪は、ピンクの着物に合わせて選んだ桜柄の鼻緒の塗り下駄を履いて出かけていきました。
写真に写る笑顔は、終始自然なまま。足元を気にする様子はなく、歩き、話し、笑い、特別な一日を心から楽しめたようです。
あとで聞くと、友人のなかには履き慣れない草履で足が痛くなってしまった人もいたそうですが、姪は一日中、足元のことはまったく気にならなかったのだとか。
それどころか、下駄の履き心地を熱心に説明し、宣伝までしてくれたそうで……本当によく育ちました(笑)。
大切な人と過ごす、かけがえのない時間。その時間を、足の痛みを気にせず、安心して楽しんでもらえたこと。
履物をつくる私たちにとって、これほど嬉しいことはありません。
履物には、格やしきたりがあります。それを大切にする気持ちも、もちろん大事です。そのうえで、晴れの日の履物の選択肢のひとつとしてmizutoriの下駄がある。そんなふうに知っていただけたらと思います。
今回、姪が選んだのは既存の一足でしたが、お時間をいただければ、晴れ着に合わせたオリジナルの下駄をお作りすることもできます。
晴れの日の足元に、安心と楽しさを添える存在として。
もし、これから迎える節目の日の足元について少し考えてみたくなったら、mizutoriの下駄をのぞいてみてください。
また、「こんな装いに合う一足はあるだろうか」「オーダーで作ることはできるだろうか」そんなご相談も、どうぞお気軽にお寄せください。
新しい年もまた、一歩一歩皆さまの時間に寄り添う一足を、丁寧にお届けしていきたいと思います。
次回に続く
シリーズ「mizutori」とは... 【第三十一話】
第三十ー話「一年の終わりに寄せて」——つないでくれた時間に、そっと感謝を 2025年も残りわずかとなりました。 新しい一年の足音を感じながら、この一年をふと振り返っています。 今年から始めたこの「mizutoriとは…」という小さな読み物。 手探りのスタートでしたが、毎週のように文章と向き合うなかで、 私たち自身があらためて “水鳥工業とはどんな会社なのか” “mizutoriとはどんなブランドなのか”を見つめ直す時間となりました。 下駄のこと。 木のこと。 ものづくりのこと。 そして、そこに関わってきた無数の人の想いのこと。 文章を書くたびに、 家族、社員、お客様、職人さん、地域の方々── これまで水鳥工業を支え、つなげてくださったすべての人の存在を、 より深く、温かく感じるようになりました。 先代が亡くなって一年。 山あり谷ありの中で会社を守り、バトンを引き継いでくれたことへの感謝が これまで以上に胸に沁みる一年でもありました。 私たちはこれからも、まずは “100年企業” をめざして。 お客様の暮らしにそっと寄り添う履物づくりを続けながら、 日本の履物文化を未来へつなぐ活動に、...
シリーズ「mizutori」とは... 【第三十話】
第三十話木の温もりを、家の中でも ——室内履きで過ごす、冬のひととき 冬の朝、ぬくもりの残るベッドを出て、床に素足をおろす瞬間。 ひやりとした感触に、季節の訪れをふと感じます。 少しずつ寒さが深まっていくこの季節、足から伝わる冷たさがつらく感じられることがあります。 皆さんは、ご自宅でスリッパを履く派でしょうか。 もともと素足で過ごすのが好きな方でも、寒くなってくるとどうしても床からの冷気が気になりますよね。 そんなときに頼りになるのが、mizutoriの室内履きです。 mizutoriの室内履きは、家の中でも木のぬくもりを感じられる履物。 ラインナップには、アーティスト・ひびのこづえさんによる《ひのきのはきもの》シリーズと、デザインユニット・ドリルデザインによる《two piece》シリーズがあります。 どちらも、mizutoriが大切にしてきた「木とともに暮らす心地よさ」を、現代のライフスタイルに合わせて形にしています。 ───────────────────── 《ひのきのはきもの》 ひのきの板を足裏に沿うようにカーブをつけて薄く圧縮プレスした台が、軽やかな履き心地をもたらします。 丸や四角のパンチングの穴がアクセントとなり、シンプルながら個性も感じるキュートなデザイン。 木のぬくもりが、毎日の暮らしにそっと寄り添い、お家の中を彩ります。───────────────────── 《two piece》 2つの木のパーツをつなぐ独自の構造により、歩くたびに足の動きに合わせてしなやかに屈曲します。 トンネルのような深めのバンドが甲をやさしく包み込み、安心感のある履き心地を叶えます。 無駄のない上質なデザインと、快適な履き心地を兼ねそなえた一足です。───────────────────── どちらのシリーズも、洗練されたデザインでお部屋をおしゃれに演出できますし、お客様へのおもてなし用にも最適です。 リラックスして過ごす空間には、自然と“気分の上がるもの”を選びたくなりますね。 木の履物というと「硬くて冷たそう」という印象を持たれるかもしれません。 でも実際に素足で履いてみると、木のやさしさを感じられることに驚かれるはずです。 夏はひんやり、冬はほんのり暖かく感じられる——それは木が呼吸する素材だからこそ。 空気を含むことで熱を伝えにくく、自然の力で一年を通して快適さを保ってくれます。 ─────────────────────...
シリーズ「mizutori」とは... 【第二十九話】
第二十九話干支下駄、つくっています。 — 遊び心から生まれる、年に一度のお楽しみ 毎年この季節になると、工房の空気がどこかそわそわしはじめます。 来年の干支をテーマにした「干支下駄」の提出期限が迫っているからです。 mizutoriでは、ここ数年、お正月展示に合わせて毎年干支下駄をつくっています。 実用性よりも“遊び心”を大切にしたこの企画は、 普段のものづくりとは少し違う、自由でのびやかな創作の時間です。 干支の動物がデザインされた生地を探す人、 台に大胆なペイントを施す人、 チャームを縫い付けたり、フェイクファーを貼ってみる人。 寅年には、台いっぱいに“虎の背骨からお腹まで”の毛色を手描きしたり、 卯年には“しっぽ”をイメージしたふわふわのポンポンを付けたり—— 子どもの頃の図工の時間を思い出すような、思い思いの挑戦が続きます。 もともとは、社員の“発想力・開発力を育てる”ための社内企画として始まりました。 ところが、毎年続けるうちにすっかり定番化し、夏を過ぎた頃には 「そろそろ考えないとね」 と、来年のデザインを思案しはじめる人も出てきました。 完成した干支下駄は展示期間が終わると、製作した社員に“参加賞”として進呈しますが、 製作者の希望があれば、そのまま店頭に並ぶこともあります。 ご自身の干支に思い入れがあってグッズを集めている方や、 一点物のデザインを探している方も多く、 意外なことに、思い切ったデザインのものほど手に取っていただくことが多いのです。 ...
シリーズ「mizutori」とは... 【第二十八話】
第二十八話2026年 新柄決定!─ 新しい鼻緒柄が生まれるまで 下駄と向き合う毎日のなかで、 一年のうちもっとも悩む時期があります。 それは、「来年の鼻緒」を決めるとき。 mizutoriの下駄には、100種類を超えるバリエーションがありますが、 そのうち毎年15~20種類ほどは、新しい柄へ入れ替えています。 貴重な生地は材料がなくなると同時に販売終了となることも多く、 個性的なデザインは1年限定で挑戦してみることもあります。 次の一年をともに歩む鼻緒を選ぶ作業は、 毎回、果てしのない旅のようです。 ■膨大な布の中から“たったひとつ”を選ぶということ お客様から 「どれがいいか迷ってしまいます」 とよく言われますが── 実はその前段階で、 作り手の私たちも同じように、 いえ、それ以上に迷っています。 なぜなら、鼻緒の候補となる生地は膨大で、 一つひとつが魅力的だからです。 選ぶときの基準はいくつかあります。 ...
シリーズ「mizutori」とは... 【第二十七話】
第二十七話「冬に、下駄を履くということ」— 下駄屋の葛藤と、これからの可能性
冬が近づくと、足もとは自然とあたたかさを求める季節になります。厚手の靴下、しっかりしたブーツ、ふわふわのルームシューズ——下駄には木の心地よさがあり、足裏に伝わる木のぬくもりが好きだと言ってくださる方も多いのですが、やはり冬の冷え込みを考えると、素直におすすめしづらい時期でもあります。
mizutoriでも、冬に下駄を楽しんでもらえる方法を、長いあいだ模索してきました。実は過去に、冬仕様の下駄づくりへいくつもの挑戦をしてきたことがあります。ひとつは、木地にしっとりとしたスエードを合わせたサボタイプの冬下駄。冬の装いに自然に溶け込む一足として、静かな人気がありました。
そしてもうひとつが、足を入れた瞬間の包み込まれるフィット感とあたたかさを併せ持つふかふかのムートンをたっぷり使ったサボタイプ。履いた方の満足度は非常に高く、「これなら冬でもmizutoriが履ける」とのお声も多くいただきました。その他にも、鼻緒をニットで編んだり、天板に保温性のあるクッションを貼ったり、フェイクファーを使って見た目にもあたたかさを感じられる工夫をしたり、思い浮かぶままに、いろいろな試作を繰り返してきました。しかし——冬はあたたかいブーツや防寒性の高い靴が数多くある季節。どんなに工夫を重ねても、“冬に下駄を選ぶ” という方は圧倒的に少ないという現実があり、これらのモデルはラインナップに残ることはありませんでした。それでも、冬に心地よく履ける下駄づくりをあきらめたわけではありません。木の温もりは、季節を問わず足もとにやさしいもの。そして、冬だからこそ感じられる木製品のあたたかな魅力も確かにあります。
ふと、考えることがあります。
もし、冬に下駄を楽しむ新しい形があるとしたら——
どんな一足が生まれるのでしょうか。
たとえば——
・足をすっぽり包む、あたたかなデザイン
・靴下と合わせやすい、冬専用のフォルム
・家の中で履ける“冬の室内下駄”
・ムートンモデルを、もっと進化させた復刻版
・木を使わなくても“木を感じる” まったく新しい発想の履物 など……
そんな、まだ形のない可能性が、mizutoriの未来のどこかに静かに眠っている気がしています。答えは、まだはっきり見えていません。けれど、mizutoriの下駄や履物を愛してくださる皆さまそれぞれが心のどこかでふと浮かべる「こんな冬下駄があったらいいな」という小さな期待が、未来への灯りをそっとともしてくれるように思うのです。
mizutoriはこれからも、季節とともに歩みながら、木の履物の新しい可能性を静かに探し続けていきます。
次回に続く
シリーズ「mizutori」とは... 【第二十六話】
第二十六話贈る、というぬくもり — 歩みをともにする贈り物 年の瀬が近づくと、クリスマスやお歳暮、お年賀など、 大切な人への贈り物を考える機会が自然と増えていきます。 mizutoriの履物を贈られるお客様の中には、 「これからの歩みを健やかに」「新しい暮らしを心地よく」 という想いを添えて選ばれる方が多くいらっしゃいます。 古くから日本では、履物は“円満”や“調和”の象徴とされてきました。 左右がそろって初めて一足として成り立つ姿が、 二人が寄り添い、共に歩む姿と重なるからです。 また「一年のはじまりに新しい履物をおろすと無病息災につながる」 といった暮らしに根づいた風習も各地に残っています。 履物は、人の「歩む」という営みを支えるものとして、 古くから節目や祈りと深く結びついてきたのです。 mizutoriの下駄や室内履きは、 そうした日本の生活文化を、今の暮らしにそっと受け継いでいます。 結婚祝い、新築祝い、還暦(60歳)、古希(70歳)など── 人生の節目を迎える方へ贈られることが多いのも、 履物が持つ“歩み”の象徴が自然と喜ばれるからなのでしょう。 還暦には「赤」、古希には「紫」。 これは長寿を祝う色として古来より親しまれてきたもので、 赤には「生命の再生」「新しいはじまり」、 紫には「気品」「徳を重ねた年齢を敬う」という意味が込められています。 ...
シリーズ「mizutori」とは... 【第二十五話】
第二十五話木に触れるということ
——自然のぬくもりを、日々の暮らしの中で
冬の朝、空気の冷たさに少し身をすくめながら、ふと木の家具や床に触れると、どこかほっとした気持ちになることがあります。
木に触れるときの、あのやわらかな感触。それは、自然の中で暮らしていたころの人の記憶に響く“安心”なのかもしれません。
mizutoriの履物づくりは、そんな“木の心地よさ”を暮らしの中にそっと息づかせることを大切にしています。
足裏で木の質感を感じ、自然のぬくもりとともに過ごす時間。それは、忙しい暮らしの中でふと立ち止まるような、静かなやすらぎのひとときです。
木は、見た目や香りだけでなく、触れたときの“温かさ”にも特別な力があります。
研究によると、木材の表面に触れると心拍数や血圧が穏やかに下がり、体も心もリラックスする傾向があるそうです。
また、木は熱を伝えにくいため、冬でも“ひやり”とせず、ほんのりと温かく感じられます。そうした自然の性質が、mizutoriの履物がもたらす心地よさの一部になっています。木目の模様や光沢、ひとつとして同じもののない表情にも、不思議な力があります。
人は自然の中にある“ゆらぎ”に安らぎを感じるといわれます。だからこそ、木の履物に足を入れるたび、どこか落ち着いた気持ちになるのかもしれません。
mizutoriの下駄や室内履きは、そうした木の特性を活かしながら、現代の暮らしに寄り添う形に進化を続けています。履き心地のよさ、デザインの美しさ、そして何より、自然とともにある感覚を大切に。手に取った瞬間に伝わる“木のあたたかさ”。それは、季節を問わず人の心に寄り添う、mizutoriのものづくりの原点です。
足もとから、自然と調和するやさしい時間を。木のぬくもりが宿るmizutoriの履物は、自分をいたわる時間にも、誰かを想う贈りものにも、そっと寄り添います。
次回に続く
シリーズ「mizutori」とは... 【第二十四話】
第二十四話“つくる手”を未来へ――mizutoriのものづくりを支える人たち
mizutoriの下駄づくりは、ひとつの工場の中だけで完結するものではありません。木工加工・塗装・鼻緒加工・底材加工——それぞれの専門職が携わる“分業の文化”によって支えられています。
それぞれの現場には、長年の経験で培われた技と勘が息づき、見えないところでひとつの製品を形づくっています。
けれど今、その“手”が少しずつ減っています。技を継ぐ人がいない。教えたいと思っても、生活の基盤が整わなければ続けていくことが難しい。
そんな現実の中で、mizutoriもものづくりの未来に向き合っています。
私たちが大切にしているのは、ただ製品をつくることではありません。下駄という文化を今の暮らしにつなげていくこと——。そのためには、つくる人が安心して働ける環境を守る必要があります。
たとえば、量産品との違いをきちんと伝えること。mizutoriでは、積極的なコラボレーションやこうした発信を通じて、手間を惜しまないものづくりの魅力を知ってもらう活動を続けています。
そして、手間に見合った適正な価格で販売を続けていくこと。それは、つくる人たちの誇りを守ることでもあります。
実際の製造現場は、華やかさとは無縁です。どうすれば品質を保ちながら、より効率的に進められるか——日々、試行錯誤を重ねる地道な仕事です。
それでも、自分の手で商品を生み出し、誰かの暮らしに寄り添うものをつくる。その確かな手応えが、この仕事の何よりのやりがいです。
mizutoriでも、次の世代の“つくり手”を迎える準備が急がれています。決して楽な仕事ではありません。ですが、探求心を持ち、ものづくりの苦労すらも楽しめる方にこそ、この世界に飛び込んでほしいと願っています。
自分たちの一つひとつの行動が、地域産業を支えているという誇り。その想いが、今のmizutoriを、そして日本のものづくり文化を支えています。
商品の背景にある物語や文化に価値を感じてくださる方がいるかぎり、mizutoriは、この日本のものづくりを静かに、丁寧につないでいきます。
次回に続く
シリーズ「mizutori」とは... 【第二十三話】
第二十三話mizutori下駄との付き合い方2「直す・楽しむ」
mizutoriの下駄は、「壊れにくさ」ではなく「長く付き合い続けられること」を大切にしています。木だからこそ傷も欠けも生まれますが、それを前提に“直して履く”道筋を用意してきました。
■修理に込めたもの
mizutoriでは、履き慣れた一足を手放さずに使い続けられるよう、鼻緒のすげ替え、底ゴムの張り替え、台の補修などの修理メニューをご用意しています。工場には全国から修理品が届き、それぞれの想いがつまった一足をまた履ける状態へと整えることは、私たちにとっても大きな喜びです。
ひとことで修理と言っても、一足ごとに状態も履き方も異なるため、慎重な作業が欠かせません。そのため、お戻しまでに数か月のお時間をいただいています。また、状態によっては新品と大きく変わらない費用がかかることもあります。それでも「直して履きたい」とお預けくださる方が多く、私たちの励みにもなっています。
とはいえ、やはり金額や期間の長さに修理を迷われる方もいらっしゃるのも事実です。
■“自分で直す”という新しい選択
そうした背景から現在、ご自宅でもできる簡単な修理方法を動画でご紹介できないかと考えています。ホームセンターなど身近で手に入る道具を使えば、「かかとのゴムが減った」「細かいキズが目立ってきた」「ぶつけて少し欠けた」といったトラブルをご自身で解決することが可能になります。
自分で手入れをすることで、より気軽に履き続けられるだけでなく、その一手間が更なる愛着につながります。「直せる安心感」は、日常に履きものを迎える上で大きな支えになります。
■“直す”から“魅力に変える”へ
さらに将来的には“元の状態に近づける修理”に加えて、「キズや欠けを新たな魅力に変えるアレンジ修理」にも取り組んでいきたいと考えています。木の風合いを活かした塗り直しや、あえてデザインとして補修する方法など、キズ跡そのものを歴史や個性として楽しめる提案です。
木は使うほど表情が変わる素材です。完璧な姿を保つことよりも、変化していくことを前提に寄り添えるほうが自然です。
■職人に任せたい方へ
もちろん、従来どおり工場での修理受付も行っています。「自分では難しそう」「大事な一足だから職人に任せたい」という方は、どうぞ安心してご相談ください。
mizutoriの下駄は、履き捨てるものではありません。
木だからこそ、履く人とともに変化し、その変化を受け止める術をあらかじめ用意しておく。
「直して履く」という選択肢があることで、暮らしの一部として迎えていただける——私たちは、そんな存在でありたいと願っています。
次回に続く