mizutoriのよみもの
0.5cmで迷ったら? シリーズ「mizutori」とは... 【第六十六話】
第六十六話 0.5cmで迷ったら? 「MとL、私にはどちらがいいですか?」 サイズ選びに迷われたお客様から、よくこんな質問をいただきます。 例えば、 足長が24cmくらいの方。 hiteteシリーズなら、 下駄台の実寸23.5cmのMと、24.5cmのL。 どちらを選んでも、その差はたった0.5cmです。 「大は小を兼ねるから、Lの方がいいかな。」 という方もいれば、 「下駄はかかとが少し出るくらいがいいんですよね?」 と、Mを選ぼうとする方もいらっしゃいます。 そんな時、 私はいつも、 「一度、履いて歩いてみてください。」 とお伝えします。 そして、 「歩いた時に、下駄台が足にくっついてくるように感じる方がおすすめですよ。」 と。 実際に歩き比べていただくと、 「ああ、なるほど。」 と納得される方がほとんどです。 mizutoriの下駄は、 一部の子ども用とスリッパ系を除いて、1cm間隔でサイズをご用意しています。 木を一つひとつ加工することを考えれば、 もっと大まかなサイズ展開の方が、つくる側としては楽です。 在庫の管理だって、その方がずっと簡単です。 それでも1cm刻みにしているのは、 できるだけご自身の足長に合ったものを選んでいただきたいからです。...
突然お客様に謝られた日のお話... シリーズ「mizutori」とは... 【第六十五話】
第六十五話 突然お客様に謝られた日のお話... 先日、 縁JOYにいたときのこと、 一人の女性が、 店の前にサッと自転車を止めると、店内に入ってこられました。 そして、 あれこれと商品を手に取りながら、とても熱心にご覧になっていました。 何か特定のものを探していらっしゃるようにも見えたので、 私からお声がけすると、 そこから何気ない会話が始まりました。 現在もmizutoriの下駄を愛用してくださっていて、 新しい鼻緒の柄をいろいろ見てみたかったとのこと。 そして、 8月に本社工場で開催している「げたのみずとり大感謝まつり」に行くので、 そこで購入できればと話してくださいました。 「げたのみずとり大感謝まつり」は、 小さな傷などで正規品として販売できなくなった商品や、 試作品などを工場で販売する毎年恒例のイベントです。 「それは、ありがとうございます!」 と私が言うと、 なぜか少し気まずそうな表情になり、 「すみません。」 とおっしゃったのです。 「えっ?」 何を謝られているのかわかりませんでした。 すると、 「地場産業や伝統工芸が続いていくためには、 正規の価格で買うべきだということはわかっているんです。」...
下駄じゃない何か。 シリーズ「mizutori」とは... 【第六十四話】
第六十四話 下駄じゃない何か。 「下駄じゃない何か。」 この言葉が、 随分前から時々、私の頭の中に浮かびます。 下駄屋なのに、 下駄じゃない何か。 なんだかおかしな話ですよね。 でも、 水鳥工業のこれまでを振り返ると、 実はそれほど不思議なことでもないのです。 水鳥工業はもともと、 下駄の木地を加工する仕事から始まりました。 その後、 時代の変化とともに、 サンダルやシューズの中底加工へ。 そして現在は、 mizutoriの下駄を製造、販売しています。 ずっと履物に関わってはいますが、 その時代、その時代で、 自分たちにできることを探しながら、 少しずつ仕事の形を変えてきた会社なのです。 世の中が変われば、 人が必要とするものも変わっていきます。 だから私も、 今の仕事を続けながら、 いつもその先のことを考えています。 mizutoriが今の形の下駄をつくり始めてから、 三十年以上が経ちました。 ありがたいことに、...
「本当に手作りなんですね?」 シリーズ「mizutori」とは... 【第六十三話】
第六十三話 「本当に手作りなんですね?」 工場へ来られたお客様から、 よくこんな言葉をいただきます。 「本当に手作りなんですね。」 そして、もう一つ。 「この人数でやられているんですか?」 初めて聞いた頃は、 その言葉をどう受け止めたらいいのか、正直わかりませんでした。 もしかしたら、 「思っていたより小さな会社なんですね。」 そんな意味なのではないかと、 少し不安になっていたのです。 mizutoriの商品やウェブサイトをご覧になって、 もっと大きな会社を想像されている方が多いのも事実です。 設備の整った工場で、 かなり機械化も進んでいると思われる方も少なくありません。 でも実際は、 築年数を重ねた工場を、必要に応じて少しずつ増築し、 実家と同じ敷地の中で、 住宅街に囲まれながらものづくりを続けています。 最近ようやく看板を付けましたが、 それまでは、 初めて来られるお客様の多くがそのまま通り過ぎてしまうほど、 目立たない工場でした。 特に都会からお越しになる方には、 「期待外れと思っていらっしゃらないかな。」 そんなことを、 いつも少し気にしていました。 工場見学といっても、...
夏祭りの密かな楽しみとは――。 シリーズ「mizutori」とは... 【第六十二話】
第六十二話 夏祭りの密かな楽しみとは――。 夏になると、 花火大会や町内のお祭り、 商店街の夜店市など、 あちらこちらで夏のイベントが開かれます。 浴衣や甚平でお出かけされる方も多い季節ですね。 皆さんは、 そんな時の足もとは何を履かれていますか。 せっかくのイベントだからと張り切って下駄を履く方、 または、楽しいお出かけの途中で足が痛くならないようにできるだけ楽なサンダルを履く方、 それぞれの楽しみ方に合わせて、 履物を選ばれているのではないでしょうか。 私はというと、 特別な日だから下駄を履くという感覚はあまりありません。 普段からほとんど毎日、下駄で過ごしているので、 お祭りの日も、いつも通り下駄で出かけます。 でも、 そんな夏のイベントには、 私だけの密かな楽しみがあります。 それは、 mizutoriの下駄を履いてくださっている方を見つけること。 夏祭りの日は、 普段よりずっと多くの方が下駄を履かれています。 私たちがつくった下駄を、 どんな装いに合わせてくださっているのか。 どんな表情で歩いてくださっているのか。 そんな姿を見られることも、夏の楽しみの一つです。 最近では、 浴衣に厚底サンダルやスニーカーを合わせる方も増えました。...
「mizutori」って、どんな意味? シリーズ「mizutori」とは... 【第六十一話】
第六十一話 「mizutori」って、どんな意味? 店頭に立っていると 時々こんなご質問をいただきます。 「mizutoriって、どんな意味でつけたんですか?」 意味も何も、 私の名字なんです。 そうお話しすると、 「えっ、そうなんですか!」 と驚かれる方が少なくありません。 今では「mizutori」という名前も少しずつ知っていただけるようになりましたが、 実は最初からブランド名として考えていたわけではありません。 下駄づくりを始めた頃、 当時の水鳥工業は、サンダルやシューズの中底をつくる仕事が中心でした。 そこで、下駄部門を分けるためにつけた名前が、 「和工房みずとり」 でした。 それから年月が経ち、 「日本だけでなく、世界にも下駄を広めたい。」 そんな思いが少しずつ強くなり、 その時にブランド名として選んだのが、 アルファベットの 「mizutori」 です。 「水鳥」という名字は、全国的にあまり多くありません。 ですから、名字から付けていると気づかないお客様も多いのです。 静岡でも珍しい名字ですが、 もともとは岐阜県の地名に由来すると言われていて、 岐阜や愛知には比較的多いそうです。...
日本を離れる前に、もう一度。 シリーズ「mizutori」とは... 【第六十話】
第六十話 日本を離れる前に、もう一度。 このところ、専務が静岡の浅間神社近くに開いているお店(縁JOY)にも外国人観光客のご来店が増えています。 このお店でもmizutoriの下駄を取り扱っているのですが、海外のお客様を接客していると、反応がとても率直で面白いです。 mizutoriの下駄を見て、 「No.」 とはっきりおっしゃる方もいれば、 履いてみた瞬間、 「Wow! Beautiful!」 「Amazing!」 と目を輝かせる方もいます。 そんな素直な反応に、私たちも日々たくさんのことを教えていただいています。 その中でも最近、忘れられないスイスのご夫婦との出会いがありました。 奥様がショーウィンドウの下駄の前で足を止められ、 そのまま店内へ入って来られました。 扉を開け、店内いっぱいに並ぶ下駄を前に、 ぱっと表情が明るくなり、 目をキラキラとさせているのが、離れていても伝わってきました。 「どれがいいと思う?」 そう言って奥様は、店内を見渡しながらご主人に話しかけていらっしゃいました。 やがて、 私にも、 そして、たまたま店内にいらしたお客様にも、 気さくに尋ねていらっしゃいました。 「私は普段、ピンク系の服が多いの。」 「だったら、こっちの方が合うかしら。」 鏡の前で履き比べながら、何足も手に取っては楽しそうに悩まれています。 すると、 いつの間にか店内のお客様も自然と会話に加わり、...
暑い夏を涼しく乗りきる履物とは? シリーズ「mizutori」とは... 【第五十九話】
第五十九話 暑い夏を涼しく乗りきる履物とは? 先日、 朝の情報番組で、暑い季節におすすめのサンダル特集を放送していました。 梅雨も明け、本格的に暑くなってくると、やはり足もとにも、できるだけ涼しく軽やかに感じられる履物を選びたくなります。 サンダル特集では、 蒸れにくいもの。 軽いもの。 立ったままサッと履けるもの。 足を休ませるリカバリーサンダルまで。 さまざまな商品が紹介されていて、同じ履物をつくる者として、とても興味深く見ていました。 どの商品にも、それぞれの工夫があり、 「なるほど。」 と思うことばかりでした。 そんな特集を見ながら、 実は心の中で、 「下駄も仲間に入れてほしかったな。」 と思っていました。 もちろん、下駄は一般的に皆さんがイメージするサンダルとは違うかもしれません。 けれど、サンダルという言葉が日本で広く使われるようになる、ずっと昔から、 日常の履物として、人々の暮らしの中にあって、 蒸し暑い日本の夏も、快適に過ごせるよう、足もとを支えてくれていました。 番組で紹介されていたサンダルの魅力を聞くたびに、 「下駄にも、共通する心地よさがあるんだけどな。」 そんなことを何度も思っていました。 足全体を覆わないので、蒸れずに快適。 鼻緒だけで支えるので、足指をしっかり使って歩ける。 疲れたら、ほんの少し鼻緒から足を抜いて、足を休ませながら履くこともできます。 そして、立ったまま手を使わずに、簡単に脱ぎ履きができる。 デザインも多種多様。...
下駄の魅力は「脱ぎやすさ」⁉ ―私が下駄を選ぶ理由― シリーズ「mizutori」とは... 【第五十八話】
第五十八話 下駄の魅力は「脱ぎやすさ」⁉ ―私が下駄を選ぶ理由― 7月に入り、いよいよ夏本番。 花火大会や夏祭り、旅行や帰省など、夏のお出かけが楽しい季節になりました。 一年の中でも、下駄が一番活躍する季節です。とはいえ私自身は、夏に限らず、一年の大半を下駄で過ごしています。 「やっぱり下駄屋さんだからですね。」 とよく言われるのですが、今日はその少し意外な理由をお話ししたいと思います。 履き物屋に生まれ育っておきながら、 実は私、 できることなら、何も履きたくないと思っているんです。 それくらい、足が窮屈なのが大嫌いなんです。 よほど寒くなければ、靴下さえ履きたくありません。 幅広の足なので、靴選びにはいつも苦労してきました。 お洒落な靴やサンダルを履くと、指同士がぎゅっと押されて、マメができたり、足がしびれたり。 巻き爪に悩まされた時期もありました。 そんな私にとって、下駄はうってつけの履物です。 足指を自由に動かせて、風も通る。 長時間履いていても、窮屈さを感じにくい。 だから一年中、自然と下駄を選んでしまいます。けれど正直に言うと、 その下駄からも、時々足を解放したくなることがあります。 そんな時に思うのです。 やっぱり下駄って、いい履物だなあと。 なぜなら、 すぐに脱げるからです。 これまで、 歩き方や履き心地、鼻緒のこと、コーディネートなど、 下駄を履いて歩くことについてたくさんお話ししてきました。 でも実は、 私が一番好きなのは、歩きやすさ以上に、...
言葉の中に残る下駄 シリーズ「mizutori」とは... 【第五十七話】
第五十七話 言葉の中に残る下駄 「下駄を預ける」 「下駄を履かせる」 「勝負は下駄を履くまで分からない」 「高下駄を履く」 こんな言葉を、一度は耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。 では、 「下駄の雪」 「下駄の歯で旅をする」 この二つの意味はご存じでしょうか。 実は、日本語には下駄にまつわる言葉や慣用句がたくさん残っています。 それだけ昔の日本では、下駄が暮らしの中で身近な存在だったということなのでしょう。 まず、 「下駄を預ける」。 これは、物事を相手に一任すること。 下駄を預けてしまえば、自分では自由に動けません。 そこから、安心してすべてを任せるという意味で使われるようになったと言われています。 次に、 「下駄を履かせる」。 これは、数字や評価を少し上乗せすること。 下駄を履けば、実際より背が高く見えます。 そこから、実際より良く見せたり、多く見せたりする意味になりました。 「高下駄を履く」 という言葉もあります。 昔の高下駄は、普通の下駄より歯が高く、履けば自然と目線も高くなります。 そこから、実力以上に自分を大きく見せたり、実際以上に立派に見せたりすることを表すようになりました。 そして、 「勝負は下駄を履くまで分からない」。...
もう手に入らない一本歯下駄 シリーズ「mizutori」とは... 【第五十六話】
第五十六話 もう手に入らない一本歯下駄 先日、下駄を履いてみたいというお客様が店頭にいらっしゃいました。 その方が思い描いていたのは、漫画「ゲゲゲの鬼太郎」が履いているような昔ながらの二枚歯下駄です。 けれどお話を伺うと、足に少し悩みをお持ちでした。 土踏まずと呼ばれる足裏のアーチがほとんどなく、歩いているとすぐに足裏が痛くなってしまうそうです。 アーチには、歩行時の衝撃を吸収したり、体重を分散したりする役割があります。 そのため、シューズに比べてかたい木製の履物である下駄は、きっと履けないだろうと半ば諦めていらっしゃいました。 それでも、 「mizutoriなら履けるかもしれない」 そんな期待を持って、足を運んでくださったのです。 まずは、mizutoriの「げた物語」や「茶人」に足を入れていただきました。 けれど残念ながら、すぐに足裏が痛くなってしまいました。 しばらく試していただきましたが、痛みは変わりません。 下駄への憧れはあるけれど、やはり自分の足には難しいのかもしれない。 そんな空気になっていました。 その方は昔ながらの歯のある下駄がお好きだということでした。 そこで、 「せっかくですから、試しに履いてみますか」 と、たまたま夫が私物として持っていた一本歯下駄をお見せしました。販売している商品ではありません。 ただ、一本歯下駄は竹馬に乗っているような感覚のある、面白い履物です。 私自身もこの一本歯下駄を履いた時の、何とも言えないユニークな感覚が忘れられず、ぜひお客様にも試していただきたいと思ったのです。 その方は興味深そうに足を入れ、ゆっくり歩き始めました。 すると、 「これは足裏が痛くないです」 と、嬉しそうにおっしゃったのです。 そして、 「もし同じものがあれば欲しいです」 とおっしゃいました。 そこで私は、その一本歯下駄を購入したお店の情報を改めてご連絡することにしました。...
温故知新 ―試作の山は宝の山?― シリーズ「mizutori」とは... 【第五十五話】
第五十五話 温故知新 ―試作の山は宝の山?― 工場には、たくさんの試作品があります。 新しい商品を考えるたびに、試作品をつくります。 鼻緒の色を変えたり、形を変えたり、素材を変えたり。 一度で思い通りのものができることは、ほとんどありません。 少し変えては試し、また少し変えては試す。 そんなことを繰り返しながら、商品は形になっていきます。そして商品になるものもあれば、商品にならないまま終わるものもあります。 そのため工場には、試作品や型紙が少しずつ増え続けています。 正直に言うと、置き場所には困っています。 「もう使わないなら捨てればいいのでは」 と思われるかもしれません。 けれど私たちにとって、試作品は簡単に捨てられるものではありません。 なぜなら、それらはmizutoriが積み重ねてきた歴史であり財産だからです。 何十年も前につくった台を引っ張り出してきて、 新しい商品のヒントにすることもあります。 昔の配色から学ぶこともありますし、技術的な工夫が参考になることもあります。 今考えていることを、実は何年も前に誰かが試していた。 そんなことも珍しくありません。そして過去をたどると、 「なぜ商品化しなかったのか」 という理由が見えてきます。 当時は時代が早すぎたのかもしれません。 材料がなかったのかもしれません。 技術的に難しかったのかもしれません。 あるいは、その時は必要とされなかっただけで、今なら形にできることもあります。 過去を知ることで、今やるべきことが見えてくることがあります。 だから昔から、 「試作品と型紙は必ず残しておけ」 と言われてきました。 実際に工場には、ずいぶん前につくられた試作品や型紙が今もたくさん残っています。...













