第四十九話

下駄の音とともに

下駄で歩くと、
カンカン、コツコツと、
木ならではの音が響きます。

この音に対する感じ方は、
人それぞれかもしれません。

私自身、この音に対する印象は、
これまでの人生の中で
大きく変わってきました。

まだ学生の頃、
少しでもmizutori下駄を広めたいという思いから、
通学に下駄を履いていた時期がありました。地下鉄を乗り継いで学校に通っていたのですが、
慌ただしい時間帯に
足早に駅の階段を上り下りすると、
その音が構内に大きく響きます。

カンカン、コツコツと響く音に、
行き交う人がふと足を止め、
音の出どころを探すように
きょろきょろと視線を動かし、
やがて私の足元に目が集まる。

広めるという意味では
大成功だったのかもしれませんが、
当時の私はそれが少し恥ずかしくて、
なるべく顔を隠すようにして、
下を向いて歩いていました。

周りの同級生は、
流行りの厚底靴や
ハイヒールのサンダルを履いている中で、
下駄は明らかに異質な存在でした。

それでも、
mizutoriを知ってもらえたらと思い、
自分にできることとして
履き続けていました。

今となっては、
懐かしく笑える思い出です。

それから長い時間が経ち、
今では、下駄が一番しっくりくる履物になりました。

どうしても履けない場面以外は、
ほとんど毎日履いています。

気づけばもう、
人生の半分以上を
この音の中で過ごしています。

そしていつのまにか、
この下駄の音は、
心地よいものへと変わっていました。

歩くたびに響く
コツコツとした音に、
どこか安心するような感覚さえあります。

今では、
遠くから聞こえる足音で、
mizutoriの下駄かどうかが
なんとなく分かるようになっています。

音に対する感覚もまた、
履いていく中で
育っていくものなのかもしれません。

数年前、
息子がまだ幼稚園くらいの頃のことです。

スーパーや街中で、
少し目を離した隙に
どこかへ行ってしまうことがありました。

けれど、
彼が歩き始めた頃から
ずっと下駄を履かせていたので、
遠くから聞こえる足音を頼りに、
居場所を見つけることができました。

カンカン、コツコツと響く音が、
息子の居場所を教えてくれる。

そんなふうに、
思いがけないところで
役に立つこともあるのだと、
そのとき初めて気づきました。

かつては少し恥ずかしいと感じていた音が、
今では心地よく、
自分の中で安心できる音になっています。

下駄の音は、
ただ響くだけのものではなく、
その人の時間や記憶とともに、
日々の風景に色を足してくれるものなのかもしれません。

足元から生まれる音とともに、
これからも思い出を重ねていけたらと思います。