第五十二話
mizutoriの職人 —よっちゃん—
mizutoriには、
「よっちゃん」という
ベテランの職人がいます。
今年83歳。
けれど工場では、
彼の年齢を意識することは
ほとんどありません。
時短勤務になってからも、
気づけば定位置に座っていて、
段取りよくシャキシャキ手を動かしている。
私のかなり古い記憶の中にも、
よっちゃんはいます。
先代社長の友人でもあるので、
私が生まれる前からずっと
身近にいた存在です。
もともと靴業界にいて、
履物づくりに携わって60年以上。
下駄づくりの世界に入ってからも、
数十年になります。
父と年齢も近く、
尊敬する履物づくりの大先輩です。
偶然にも、
私と誕生日・血液型が同じということもあり、
私にとっては気の置けない相談相手でもあります。
これまでのmizutoriの商品開発では、
よっちゃんがいなければ
生まれなかった商品が
いくつもあります。
主に担当しているのは、
しずおか産ひのきを使った商品です。
人気の「ひのきのはきもの」や
「two piece」も、
よっちゃんがいたからこそ
形にすることができた商品です。
同じ履物といっても、
下駄とスリッパでは
まったく別のものです。
しかもプロのデザイナーと組んで
商品をつくるとなると、
細かな条件もたくさんありました。
履き心地も大切にしながら、
デザインも成立させる。
時には、
「本当にできるのだろうか」
と思うような、
無理難題に感じる依頼もあります。
そんな時、
私たちを支えてくれるのが、
よっちゃんの圧倒的な経験と知識でした。
そしてもうひとつ、
よっちゃんには
工場内の誰にも負けない探求心があります。
答えが見つかるまで、
考えることをやめません。
何かお願いすると、
「いやだ」
「もうわかんねぇ、無理」
と、一度は必ず渋る素振りを見せます。
けれど、
その言葉とは裏腹に、
たいてい頭の中ではすでに
次の方法を探し始めています。
負けず嫌いも
あるのかもしれません。
けれどそれ以上に、
「絶対に納得させてやる」
そんな強い気持ちを感じます。
この世代の人は、
そう簡単には諦めません。
家に帰ってからも
あれこれ考えていて、
翌朝には、
新たな解決策を
見つけてくることもあります。
しかもよっちゃんは、
ただつくるだけではありません。
「もっと早くできないか」
「無駄はないか」
そんなことを、
いつも当たり前のように考えています。
改善するべきところが見つかれば、
どんどん前向きに取り組みますし、
こちらが細かく指示を出す必要もありません。
そんなよっちゃんは、
今のmizutoriには
なくてはならない存在です。
もちろん、
これからも末永く元気でいてほしいと願っています。
(↑約15年前のよっちゃん)
けれど同時に、
技術や考え方を
次につないでいく準備も必要です。
数年前から、
後輩指導にも
力を貸してくれています。
技術だけでなく、
ものづくりへの考え方まで含めた
「第二のよっちゃん」を育てることは、
簡単なことではありません。
それでも少しずつ、
小さな芽が育ってきている感覚はあります。
ものづくりは、
手先の技術だけでなく、
長い経験の中で積み重ねた勘と感覚、
そして、柔軟な考えから生まれる
工夫によって成り立っています。
そしてそれは、
整然とまとめられたマニュアルからではなく、
人から人へしか
伝えられないものなのかもしれません。
よっちゃんが持っているものを、
少しずつでも次につないでいくこと。
それもまた、
mizutoriをつなぐ
大切なものづくりなのだと
感じています。













