第四十三話
完成された履物、下駄

 

私たちは日々、
新しい商品の開発にも取り組んでいます。

最初にmizutori下駄の第一号
「げた物語」が誕生してから、
すでに30年以上が経ちました。

その間にも、
さまざまな商品を生み出してきました。

「げた物語」のあとには、
お客様の声から生まれたヒール下駄
「hitete4.5」「hitete6.5」。

婦人靴のようにヒールを高くした下駄は、
これまでにない歩きやすさがあり、
木製サンダルとして
日常に取り入れていただける、
モダンな魅力のある一足になりました。

履き心地という点だけで言えば、
「hitete」が
最も優れているのではないかと、
今でも感じています。

その後も、
「SHIKIBU」「茶人」「BLADE」
「COLOR GETA」など、
下駄という枠の中で
さまざまな表現に挑戦してきました。

もちろん、
どの開発においても
妥協することなく、
こだわりをもって向き合ってきました。

「もっとこうできるのではないか」
「新しい形を生み出せないか」

そんな思いで
試行錯誤を重ねてきたのです。

あれこれとアイデアを出していく中で、
最後にたどり着くのは、
いつも同じ考えでした。

木の台座と、鼻緒、
これ以上に必要なものはないのではないか。

それは、
とてもシンプルな
昔からある下駄のかたちです。

長い年月の中で
受け継がれてきたその構造は、
驚くほど無駄がなく、
よくできていると感じます。

足をのせ、
鼻緒を軽く挟むだけで、
自然と歩ける。

特別な工夫を意識しなくても、
履物として成立している。

その完成度の高さに、
あらためて気づかされることがあります。

もちろん、
現代の暮らしの中で履くには、
そのままでは少し難しい部分もありました。

不慣れだと足が痛くなりやすいこと。
洋服などに合わせると少し浮いてしまうこと。

mizutoriでは、
そうした点に向き合いながら、
天板の彫りや鼻緒のつくり、
和洋どちらにも合うデザインなど、
細かな調整を重ねてきました。

足にやさしく馴染むこと。
無理なく歩けること。

そうした履き心地を追い求めながら、
少しずつ今のかたちへと整えてきたのです。

そうして辿り着いた今の下駄は、
大きく何かを変えたというよりも、
本来のかたちを活かしながら、
必要な部分だけを整えたものだと感じています。

だからこそ、
これ以上、
無理に形を変える必要はないのではないか。

そんなふうにも思うようになりました。

もちろん、
mizutoriにはチャレンジ精神があります。

このシンプルな下駄という履物が、
今よりも更に日常の中で自然に履かれていくためのアイデアがあれば、
これからも挑戦していきたいと思っています。

けれどそれは、
履き方を複雑にしたり、
本来の良さを損なうことではありません。

鼻緒の素材や、
台座の色や質感といった、

見せ方や表現の中で
まだまだ広げていけると感じています。

完成されているものに対して、
何かを足していくのではなく、
その物が備える良さをどう引き出していくか。

それもまた、
ものづくりの在り方のひとつだと思います。

大きく変えることだけが、
進化ではありません。

下駄とは、
完成されたかたちでありながら、
時代によって、その魅力を引き出し続けていく履物なのかもしれません。