mizutoriのよみもの
シリーズ「mizutori」とは... 【第十七話】
第十七話有名デザイナーとの奇跡の出会い
「Leading to new encounters(新たな出会いへと導く)」これはmizutori英語版のブランドコンセプトです。その言葉を象徴する出来事が、20年以上前にありました。
当時、先代社長は東京の百貨店で夏恒例の実演販売を行っていました。ある日、mizutoriの売場に一人の女性が立ち止まり、じっと商品を見つめたのち、こう声をかけてきました。「おじさん、下駄作れる?」顔を上げた先代の目に飛び込んできたのは、洗練された雰囲気のある女性。その人物は、世界的に有名なブライダルファッションデザイナーでした。
彼女の依頼は、ファッションショーでモデルが着用する特別な下駄。シックな黒塗りの台に、鼻緒は豪華な金襴の帯地を使ったものでした。ファッションの舞台とは無縁だった“下駄屋のおじさん”にとって、まさに想像を超える依頼です。
内心は驚きつつも、先代はいつもの調子で「できるよ!」と即答。こうして大役を引き受けることになり、知らせを聞いた工場は嬉しさとプレッシャーで大騒ぎになりました。送られてきた美しい帯地を前に、スタッフ一同はブライダルの華やかなドレスにふさわしい下駄を完成させようと、いつも以上に心を込めて製造に取り組みました。
特に工夫を凝らしたのは底材です。ステージでモデルが歩く際、木製履物特有の音が響いてショーの妨げにならないよう、通常よりクッション性の高い厚めのEVA素材を採用。こうして静かで快適に歩ける特別仕様の下駄が仕上がりました。
完成した下駄は、実際にファッションショーのランウェイを歩く衣装のひとつとして使用されました。
ショーには先代も招待され、mizutoriの下駄が世界的な舞台に立つ瞬間を、直接目にすることができたのです。
下駄がもたらしてくれた夢のようなご縁。この出来事は、先代にとっての自慢話のひとつであると同時に、「ご縁はどこでどう繋がるかわからない」ということを強く感じさせる象徴的なエピソードでもありました。mizutoriの下駄を作り始めてから、思いがけないご縁に何度も恵まれてきました。私たちが掲げる 「Leading to new encounters」 には、そんな実体験とともに、mizutoriを履いてお出かけになる皆さまにも、新しいご縁やワクワクする体験が訪れますように――そんな願いが込められています。次回に続く
シリーズ「mizutori」とは... 【第十六話】
第十六話静岡茶の恵みを、足元に。KCW-22/茶の実の物語
今回は、静岡茶と地域のものづくりの思いが詰まった一足KCW-22/茶の実(hitete6.5)をご紹介いたします。
茶染めとの出会い
この商品は、鷲巣染物店5代目 鷲巣恭一郎さんとの出会いから始まりました。
鷲巣さんは、静岡の基幹産業である「お茶」の製造工程で廃棄される部分を使った「お茶染め」を研究し、お茶染め文化創出のために活動されている方で、「お茶染め」の第一人者として知られています。茶葉が持つタンニンなどの成分を利用し、化学染料では表現できない、奥行きのある柔らかな色合いと独特の風合いを持つ作品を制作されています。
モダンな色合いと型染めによる使いやすいデザインも勿論のこと、先人の知恵と伝統技術を応用し、どこまでも価値をつけ続けるものづくりが最大の特徴です。
商品制作から作品づくりなど、多くの人と関わりながら多方面からお茶染め文化の創出を目指している鷲巣さんの思いに共鳴し、mizutoriも下駄という形でその活動の一端を担いたいと考えました。
茶葉が織りなす色彩
KCW-22/茶の実の鼻緒表は、静岡茶の茶葉を使った「お茶染め」を施しています。
緑茶そのものは鮮やかな緑色ですが、茶染めを施すと深く温かみのある茶色に変化するのが特徴です。
この色合いは、夏だけでなく秋の装いにも自然に馴染み、足元から季節を感じさせてくれます。
鷲巣さんのお茶染めは、染料として使った後の茶殻は堆肥に加工され、畑へと循環。現在は、静岡のビール工場のモルト粕と合わせて土に還す取り組みも行われています。
履くことで、自然と地域の循環型のものづくりにも触れられる一足です。
プレゼントにも最適
KCW-22/茶の実は、普段のコーディネートにさりげなく取り入れるだけで、地域の物語を足元に添えられる商品です。幅広い層に好まれる色合いは、 自分用にはもちろん、日本のものづくりに想いを馳せていただける商品として、特別な方へのプレゼントにもおすすめです。
この秋、足元から静岡茶の深みと地域のサスティナブルなものづくりを贈ってみませんか?
<イベント情報>
静岡市丸子にある駿府の工房の匠宿 伝統工芸館にて、鷲巣さんの展示イベント「お茶染めWashizu.展 茶で染めゆく - 匠宿」が9月28日まで開催中です。
同じく、駿府の工房匠宿にある、ギャラリー Teto Teto - 匠宿では、mizutoriの商品もお取り扱い中!
鷲巣さんとのコラボレーションした下駄も、数量限定で販売中です。ここでしかお求めいただけない素敵な下駄に仕上がっています。ぜひ足を運んでみてください。
次回に続く
シリーズ「mizutori」とは... 【第十五話】
第十五話下駄は「多様性」の履物!?
最近よく耳にする「多様性」という言葉。それは、違いを認め、互いを尊重しながら共に生きる、という素敵な願いが込められていますよね。実は、私たちmizutoriの下駄も、この“多様性”の考え方と深くつながっているんです。「一体どういうこと?」と、少しだけ不思議に思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。今日は、その魅力を少しだけ深く掘り下げてご紹介させていただきます。
唯一無二の物語を宿す、手作りの下駄
mizutoriの履物には、自然の恵みである天然木が使われています。木の幹の上の方、真ん中、そして根元…使用する部位によって、台の重さや硬さ、そして色合いは少しずつ異なります。左右の重さや色味、木目をできる限り揃えるよう努めていますが、自然素材ゆえ、全く同じものにはなりません。鼻緒(はなお)に使う布地も同じです。職人が生地から型を抜く際、柄の出方に配慮しますが、大きな図案の生地では、裁断する場所によって表情ががらりと変わることも。そして、mizutoriの下駄は、すべて職人の手作業によって一つずつ丁寧に作られています。たとえ熟練の職人が同じ足型・同じサイズで鼻緒をすげたとしても、そこにはそれぞれの職人の「個性」が息づき、わずかな違いが生まれるのです。そう、どんなに注意を払っても、この世に「全く同じ」mizutoriの下駄は存在しないのです。
違いこそが魅力。mizutoriは「一点物」の証
こうした一つひとつの「違い」は、決して欠点ではありません。むしろ、mizutoriが何よりも大切にしている、かけがえのない魅力だと考えています。機械で均一に作られる工業製品とは異なり、天然素材と職人の手から生まれる下駄には、それぞれに異なる個性と、温かみがあります。鼻緒の生地も、デザイナーや作家、織物工房など、「作り手の顔が見える」ものを多く採用しています。だからこそ、一つひとつの素材を無駄にせず、その良さを最大限に生かしきる、そんな思いを込めてモノづくりに向き合っているのです。あなたのもとへ届いた下駄に、もし色や柄、あるいはわずかな表情の違いを感じられたとしたら。それは、手作りだからこその「味わい」であり、あなたと下駄との「特別な出会い」の証。まさに唯一無二の「一点物」として、そのご縁を楽しんでいただけたら嬉しいです。
多様なスタイルに寄り添う、日本の履物
mizutoriの下駄の魅力は、そのデザイン性にも表れています。• 和装にはもちろん、デニムなどのカジュアルスタイルにもすんなり馴染む。• 時には、ワンピースやドレスと合わせても不思議と品良くまとまる。さまざまな好みや幅広いファッションスタイルに寄り添えるからこそ、mizutoriは現代の多様なライフスタイルに合った履物だと言えるでしょう。下駄は約二千年前に誕生して以来、時代ごとの環境や暮らしの変化に柔軟に適応し、形を変えながら、現代まで日本の履物文化として生き残ってきました。まさにこの長い歴史こそが、「変化を受け入れ、進化してきた履物」であることの証ではないでしょうか。
多様なスタイルに寄り添う、日本の履物
下駄の個性が生き生きと輝くのは、何を隠そう、下駄を履く私たち一人ひとりが「唯一無二」だから。
体形や足の形は、誰一人として全く同じではありません。同じサイズの下駄でも、足の幅、甲の高さ、指の長さなど、本当に千差万別ですよね。
「心地よさ」の感じ方も人それぞれ。だからこそ、少しずつ違う個性を持つmizutoriの下駄が、それぞれの足に不思議と馴染んでくれるのです。
違いがあるからこそ成り立つ関係――。下駄はとてもおおらかで、私たち一人ひとりの多様な個性を受け入れてくれる、そんな懐の深い履物だと感じています。
足元から「違い」を楽しもう!
mizutoriの下駄は、「みんな違って、みんないい」という言葉をそのまま形にしたような存在です。
ぜひ、足元から心も軽やかに、多様性を楽しむように下駄を気軽に取り入れていただければ幸いです。
次回に続く
シリーズ「mizutori」とは... 【第十四話】
第十四話旅や散策に出かけたくなる季節に
大切な方への贈り物にも8月もあとわずか。暑さの中にも少しずつ秋の気配が感じられるようになり、朝夕の風にふっと涼しさを感じると、季節の移ろいを実感します。そろそろ旅や散策の計画を立てたくなる頃ではないでしょうか。夏の思い出を胸に、次の目的地を考える時間もまた、この季節の楽しみのひとつですね。
mizutoriの下駄と旅する楽しみ
mizutoriの下駄は、日常のお出かけから旅行まで、さまざまなシーンで活躍しています。足にしっかりフィットする形状で軽やかに歩け、クッション性のある鼻緒は長時間履いても足をやさしく包み込みます。街路樹の歩道や木漏れ日の小径をゆったり歩けば、自然と姿勢も心も上向きになり、目の前の景色がより印象的に映りますよ。和装はもちろん、洋服との相性も良いので、旅先でのカジュアルな装いやリゾートファッションにもバッチリ馴染みます。
旅行カバンに一足入れておくだけで、装いの幅が広がり、写真映えするコーディネートが完成します。
旅先で生まれる思いがけないご縁
先日、お客様からこんなエピソードをいただきました。「mizutoriの下駄は不思議とどこにいてもその音で履いている人を見つけられるんです。旅行先で偶然mizutoriを履いている方と出会い、下駄がきっかけで楽しくお話が弾みました。まさか旅先でこんなご縁をいただけるとは思わず、とても嬉しい気持ちになりました。」
下駄は足を支える道具であると同時に、思いがけない出会いや心温まる交流をもたらしてくれる存在にもなるのだなと、私たちも胸があたたかくなりました。旅の道すがら偶然が重なり、人と人とが自然に笑顔でつながる――そんな小さな奇跡も、mizutoriの下駄がそっと後押しできれば幸いです。
秋のお出かけをもっと心地よく
これから訪れる秋は、紅葉を楽しむ小旅行や、歴史ある街並みを歩く散策など、心豊かな時間を過ごせる絶好の季節です。冷たい空気の中に香る金木犀、夕暮れに染まる街の灯り…。季節の美しさを五感で味わうひとときに、mizutoriの下駄が寄り添います。
mizutoriの下駄を履けば、足取りが軽くなり、景色をより鮮やかに楽しめるはず。シンプルなコーディネートに彩りを添えたり、旅の写真に映える一足になったりと、旅をさらに特別なものにしてくれます。
「次の休日、どこへ出かけよう?」と考えるとき、ぜひmizutoriの下駄を思い出してみてください。足元からあなたの旅を心地よくサポートし、時には人と人とをつないでくれるラッキーアイテムになるかもしれません。
mizutoriとともに、心弾む秋のお出かけをお楽しみください。
次回に続く
シリーズ「mizutori」とは... 【第十三話】
第十三話いつまでも自分らしく、アクティブに!
大切な方への贈り物にも来る9月15日(月・祝)は、敬老の日。「いつまでも若々しく、自分らしい毎日を楽しんでほしい」そんな想いを込めて、今年はmizutoriの下駄を贈りませんか。伝統が育んだ心地よさと現代的なデザインが融合した一足は、世代を問わず喜んでいただける特別な贈り物です。
一歩一歩が、足への優しさmizutoriの下駄は、見た目のおしゃれさだけでなく、履かれる方のことを考えて1点1点職人がお作りしています。下駄は構造上、鼻緒を足の指で挟むようにして歩くため、指先で地面をしっかりとらえた正しい歩行を促し、自然と爪先から足全体の筋肉運動が促進され、血行を良くしたり、姿勢を整えたりする効果が期待できると言われています。mizutoriは、日常のさまざまな場面で履き続けていただくことで、みなさまの“いきいきとした毎日”を、足元からサポートいたします。健康も、おしゃれも、どちらも大切に「下駄は夏しか履けないのでは?」と思っていませんか?そんなことはありません。mizutoriの下駄は、素足で心地よく履くのはもちろん、足袋ソックスや薄手の靴下と合わせることで、春や秋など、少し肌寒い日にも楽しむことができます。靴下の裏に滑り止めがついているものを選べば、さらに安心してお履きいただけます。その日の気分やファッションに合わせて、一年を通してさまざまなコーディネートをお楽しみいただけます。敬老の日に想いをこめた贈り物を「いつまでも自分らしく、アクティブな毎日を送りたい」という方へ、mizutoriの下駄はその方の願いに寄り添い、いつでも歩調、歩幅を合わせて伴走させていただきます。あなたの想いのこもった贈り物で、大切な方に笑顔と彩りあふれる毎日を届けませんか。次回に続く
シリーズ「mizutori」とは... 【第十二話】
第十一話下駄のおじさん
今日は、mizutoriの“顔”として長年親しまれていた先代社長――通称「下駄のおじさん」のエピソードをお届けします。mizutoriのルーツを知ることで、今お届けしている下駄が、もっと身近に感じてもらえたら嬉しいです。
春から夏にかけての下駄の季節。先代は毎年、北海道から鹿児島まで、全国の百貨店で開催される職人展や浴衣フェアを飛び回っていました。銀座、梅田、天神…。どこへ行っても、作務衣姿に巾着ひとつ。そして誰にでも気取らず、方言まじりで接客するのが、先代のスタイル。その姿に、いつしかお客様からは「下駄のおじさん」と親しみを込めて呼ばれるようになりました。
少々ぶっきらぼうだけど、なんだか憎めない。思ったことをズバッと言うその性格に、驚かれる方もいたかもしれません。でも、そんな飾らない人柄こそが魅力で、催事が恒例になるにつれ、まるで親戚のおじさんに会いに来るように、顔を見せてくださる常連さんも増えていきました。
中には、差し入れを届けてくださる方、静岡の工房まで訪ねてきてくださる方、さらには、お中元やお歳暮を贈ってくださる方まで。
たとえば、足に合う下駄が見つからないお客様には、「ぴったりこないのは、あんたの足の形が悪いんだよ」と、ズバリ。でもすぐに、「安心しな。気持ちよく履けるようにしてやるよ!」と、頼もしく言い切るのです。これが先代なりの、絶妙な接客術だったのかもしれません。
その真っ直ぐな人柄と、自分の作る下駄への自信と深い愛情が、お客様の心をつかんでいったのだと思います。mizutoriは、そんな「下駄のおじさん」のあたたかく、親しみやすい空気感を、今も大切に守っています。時代とともに変化していくことはあっても、その根っこにある想いは、今も変わりません。
ですから足にお悩みがある方も、どうぞお気軽にご相談くださいね。「下駄のおじさん」のように、あなたにぴったりの一足を、お届けします。
今年の夏は足にぴったりフィットする、心地よいmizutoriの下駄を体験してみませんか?
次回に続く
シリーズ「mizutori」とは... 【第十一話】
第十一話ブランドイメージの転機【後編】小さな町工場が見た、新しい景色
■ ブランドとしての覚醒
ひびのこづえさんと出会う以前、mizutoriはまだ「和工房みずとり」「げたのみずとり」として商品を展開しており、洋装にも合わせられるものの、まだまだ“和小物“というくくりでの下駄を作っていました。日々、お客様からのご要望に応える商品作りに取り組む中で、自分たちがどのようなブランドになっていきたいのかというビジョンは、まだ明確に描けていなかったように思います。そんな中でチャレンジした、デザイナーとの共創作業。困難な課題を乗り越えて、これまでにない製品を生み出すことができた結果、思いもよらない反応が届くようになりました。それまでご縁のなかったセレクトショップやインテリアショップなどで商品を取り扱っていただけるようになり、新たなお客様にmizutoriを知っていただける機会が増えたのです。
■ 広がる評価と確かな手応え
地元では「グッドデザインしずおか県知事賞」を受賞。その後も、雑誌『サライ』の「サライ大賞グランプリ」や、インターナショナル・ギフト・ショーでのコンテスト受賞など、さまざまな形で評価をいただきました。
一つの商品が世間の目を変える。静岡の小さな町工場でも、デザイナーとの出会いによってまったく違う景色を見ることができる。その実感とともに、「デザインの力」の大きさを再認識しました。〈ひのきのはきもの〉の登場によって、もともと製造していた下駄への注目も集まり、これまで以上に多くのお客様の目に留まるようになりました。そして、「町工場でも、デザイナーの要望に応える商品を作ることができる」という大きな自信が、私たちの中に育っていきました。
■ 未来へと続くmizutoriの挑戦
mizutoriの共創商品の第一作である〈ひのきのはきもの〉は、今でも大切に販売を続けています。これ以降、mizutoriは、デザイナーや作家、各地の伝統産業などと数多くの共創をしていくようになりました。
温故知新という言葉があります。私たちは困難に直面したことで下駄作りという原点に立ち返り、そこから再び新しい商品を生み出す機会を得ることができました。この経験を通じて、mizutoriは「チャレンジを続けるブランド」として、お客様に期待していただける存在へと成長できたのだと感じています。
これからも、歴史や伝統への敬意を忘れずに、日本の履物文化を未来につなげていく。そのためにも、恐れず新たな挑戦を重ねてまいります。どうかこれからもmizutoriを楽しみに、温かく見守り、応援していただけましたら幸いです。
次回に続く
シリーズ「mizutori」とは... 【第十話】
第十話ブランドイメージの転機【前編】ひのきのはきもの誕生秘話
■ 出会いから始まった、大きな挑戦
mizutoriでは、「茶人」「SHIKIBU」「two piece」をはじめ、静岡産ひのきの間伐材を活用した商品を展開しています。その先駆けとなったのが、コスチュームアーティスト・ひびのこづえさんデザインによる〈ひのきのはきもの〉シリーズでした。今から20年ほど前、静岡市では地場産業とデザイナーを結びつけて新たな商品開発をするプロジェクトがありました。そのプロジェクトに参加させていただいて出会ったのが、ひびのさんです。静岡県出身で、NHK教育テレビ「にほんごであそぼ」の衣装・セットデザインを手がける著名な方にデザインをお願いできることになり、私たちは緊張と期待が入り混じった気持ちでスタートを切りました。
■ デザインと技術のせめぎ合い
mizutoriはそれまで、自社で商品の企画・製造を完結させていました。そのため、プロのデザイナーの要望に応えられるのかという不安がありました。実際いただいたデザイン画は、それまでの下駄とはまったく違う印象のもので、どれも洗練されており衝撃的でした。「木製履物」と聞いてイメージされる“下駄”とは一線を画すスタイリッシュな佇まいに期待感も高まりました。
けれども、そこに記されていたのは“図面”ではなく“絵”のみ。数値の指示がない中で絵を見て立体化し、履物として具現化していくというのは、私たちにとって初めての経験でした。履き心地を重視すればデザインが変わってしまう。かといってデザインに忠実すぎると、mizutoriが大切にしてきた「心地よさ」が損なわれてしまいます。素材もデザインイメージに近く、かつ、耐久性や肌触りといった実用性を兼ね備える必要がありました。
■ 職人技が生んだ奇跡の一足
Mizutoriではこのプロジェクトで初めて、天板に静岡ひのきの間伐材を使用しました。ただ、デザイン画通りの薄さでひのきを使用した場合、履いたときに割れてしまう可能性がありました。
そこで地元の家具加工業者に協力を仰ぎ、強度を確保するためにおよそ10mmの木板を半分近くにまで圧縮プレス。なんとか試行錯誤の末にデザイン通りに薄く、でも、実用的には強度のある天板が完成しました。さらに、履き心地を良くするため、足裏の曲線に沿うような“曲げ加工”も施しましたが、この工程が非常に難しく、木の表面にシワが出ないよう仕上げるのは至難の業。この加工は、偶然成功したと言ってもいいほど困難で、今でも同じ加工ができる工場はなかなかありません。そうして何度も試作を重ね、ようやくひびのさんも私たちも納得のいく商品が完成しました。
今思い返しても、あの開発の日々はまるで修行のようでした。しかしこの経験が、mizutori開発チームの「ネバーギブアップ精神」の礎になったことは間違いありません。こうして世に出た〈ひのきのはきもの〉は、mizutori――そして水鳥工業のイメージを大きく変える転機となったのです。
次回に続く
シリーズ「mizutori」とは... 【第九話】
第八話「下駄=痛い」…そのイメージ、mizutoriが変えます!
夏祭りや花火大会など、心が弾む季節がやってきました。浴衣や夏の装いにチャレンジしたいけれど、「足元はどうしよう?」と悩む方へ——。mizutoriの下駄は、洋装・和装どちらにもなじむデザインと、快適な履き心地が魅力。まるでサンダルのように気軽に履けて、普段の暮らしにも自然と溶け込みます。日本の伝統を日常で楽しめる、そんな一足です。
「下駄って、足が痛くなるのでは?」
——そんな不安を感じる方も少なくありません。mizutoriは、そうした声に真摯に向き合い、 “痛くなりにくい下駄”を目指して改良を重ねてきました。
▼ 痛くなりにくい5つの理由
1. 鼻緒が幅広・前つぼが太め足指で鼻緒を挟む「前つぼ」は、細いと圧が集中して痛みの原因に。mizutoriはこの部分を太めに設計し、さらに鼻緒全体を幅広にすることで、足への圧力を分散させています。
2. クッション入りの鼻緒mizutoriの鼻緒には、見えない部分にクッション材を内蔵。これにより足をふんわりと包み込むようなやさしい履き心地を実現しています。
3. 肌あたりのよい素材選び鼻緒の裏地など足に直接触れる部分には、長時間歩いても擦れにくいように柔らかく滑らかな素材を厳選しています。
4. 足へのなじみを考えた木台の形状mizutoriの下駄には、足のアーチに沿った立体的な彫りが施してあります。足裏がフィットし安定することで、歩きやすく疲れにくい設計になっています。
5. オーダーメイドの調整も可能既存サイズでは不安という方には、鼻緒のサイズ調整も対応しています。ご注文時にお知らせいただくことで、より快適な一足をお作りすることができます。
快適に履くためのひと工夫
とはいえ、足の形や皮膚のタイプ、気候などによっても履き心地は変わってくるので「絶対に痛くならない」とまでは言い切れません。
そんな方におすすめしたいのが、「ハーフソックス」の活用です。
鼻緒による擦れや痛みを予防できるうえ、汗汚れも防げて、衛生的。ソックスの色を変えることで、コーディネートのアクセントにもなります。
mizutoriウェブショップでは、「SASAWASHI 5本指ハーフソックス」も販売中。
くまざさを漉き込んだ和紙で織り上げたさらっとした肌ざわりを、ぜひ下駄と一緒に体験してみてください。
日本の夏を、mizutoriの下駄でもっとお洒落に、快適に!
涼やかで快適、そしてちょっと個性的。mizutoriの下駄とともに、日本の夏をもっと楽しんでみませんか?
次回に続く
シリーズ「mizutori」とは... 【第八話】
第八話下駄は“平和な時代”に進化した?
「下駄は平和な時代に進化する履きもの。そして日本の風土に合った美しい文化だ」これは、先代社長が語っていた言葉です。この言葉の意味、一体どういうことなのでしょう?今回は、日本人の暮らしとともに歩んできた「下駄」のルーツと、日本の風土・平和・文化との関係に注目してみます。■下駄の原点 ―自然の中で生まれた生活の知恵―日本は雨が多く湿度も高いため、足元がぬかるむ場面も多くあります。そうした風土の中で弥生時代後期〜古墳時代に登場したのが「田下駄」。足を泥や水から守る道具として生まれたのが下駄の原点です。この時点では、まだ鼻緒(はなお)はなく、紐で足に固定しており、ファッション性よりも純粋な「道具」としての側面が強いものでした。
■貴族や僧侶の履物へ ―平安時代~鎌倉時代―この時代になると、下駄は徐々に貴族や僧侶の間で使われるようになります。地面の泥や汚れから高価な衣装を守るため、高さのある履物が必要とされました。まだ一般庶民に普及するものではなく、特権階級の履物という位置づけでした。
■“平和”と“心のゆとり”が文化を育てる ―室町時代~江戸時代―戦乱の世が落ち着き、平和が訪れると人々の暮らしに余裕が生まれます。そして下駄が最も発展し、文化として花開いたのが江戸時代です。
商業、都市文化が発展したことで、下駄は武士から町人まで、老若男女問わず誰もが履く日常的な履物となりました。実用品からお洒落や自己表現の手段へと進化し、鼻緒や台の素材・色柄・形にこだわることで「粋」や「伊達」を演出し、季節感や個性を楽しむアイテムに。種類も多様化し、雨の日の「高下駄」、普段使いの「日和下駄」、舞妓さんの「ぽっくり下駄」など、用途に応じて多彩に発展しました。
この発展とともに、下駄を作る「下駄職人」や、鼻緒を作る「鼻緒職人」が現れ職人の分業化も進みました。精巧な木工や織物技術も磨かれ、下駄は美意識と技術が融合した工芸品へと進化していきました。
■下駄の進化は、終わらない。次の100年を見据えて。歴史が示すように、下駄は日本の自然と調和し、平和な時代にこそ人々の創造性によって育まれた文化と職人技が詰まった履物です。先人たちの知恵と美意識が息づく下駄は、ただの履物ではなく、平和の象徴ともいえる日本の美しい文化だと感じています。
次回に続く
シリーズ「mizutori」とは... 【第七話】
第七話「hitete」ネーミング秘話
今回は、mizutoriのヒール下駄の代表作ともいえる「hitete(ハイテテ)」のネーミング秘話をお届けします。mizutoriがヒール下駄を作り始めた当初は、まだ名前がなく、単純にヒールの高さで4.5cmを「中ヒール下駄」、6.5cmを「ハイヒール下駄」と呼んでいました。やはり商品にはちゃんとした名前があった方がいいということで、次に名付けられたのが「SENSE」でした。これには、「センスある着こなしに合わせて履ける下駄」であり、そして「履くことで心地よさを感じてほしい」という願いが込められていました。「SENSE」という名前は2018年まで長く使っていたので、聞き覚えがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。そして2019年、商品群の整理を機に、現在の「hitete」に改名することになりました。
「hitete」という表記を見て、「ヒテテ」と読んだ方も多いと思いますが、「ハイテテ」と読みます。
この新しい名前を決めるにあたっては、社員みんなでアイデアを出し合ったり、投票したりと、全員参加で考えました。新しい名前に込めたのは、「お客様にこの下駄を履いて、お出かけを心ゆくまで楽しんでほしい」という私たちの熱い思いでした。
そして、この「hitete」という名前には、実はこんなエピソードも隠されています。昔、先代社長が催事販売でお客様に下駄をおすすめする際に、決まって「ハイテッテ(履いて行って)ごらん!」と声をかけていたんです。また、「この下駄、ハイテテ(履いていて)心地いいね」というお客様からの感想もたくさんいただいていました。さらに、弊社にはフランス語を母国語とする専務がいるのですが、彼が「『été(エテ)』はフランス語で『夏』という意味だから、『hit ete』なら夏にヒットする商品になるかもね!」と言ってくれたのも、決定の後押しになりました。「こじつけかな?」と感じる部分もあるかもしれませんが、こうしたいろいろな思いや願い、そして温かいエピソードが詰まって名付けられたのが「hitete」です。我が子に名前をつける時と同じように、たくさんの愛情が込められているんです。今年の夏のお出かけには、ぜひ「hitete」をハイテッテ(履いて行って)、日常を心地よく楽しんでください!
次回に続く
シリーズ「mizutori」とは... 【第六話】
第六話お客様の声から生まれた、ヒール下駄「hitete」
「げた物語」を世に送り出し、私たちは百貨店での催事など、お客様と直接お会いする機会を少しずつ増やしていきました。それまで下請け工場として材料加工に専念してきた私たちにとって、お客様の生の声を聞くことは、すべてが新鮮で、たくさんの気づきをもたらしてくれました。
中でも、特に多くの女性のお客様からいただいたのが、「もう少しヒールのある下駄を作ってほしい」というご意見でした。「履き心地はすごく気に入っているけれど、普段履いているヒールに慣れているから、もう少し高さがあった方が歩きやすいのよね」「デニムにはもちろん合うけれど、おしゃれをして出かける時は、もう少しエレガントなデザインだと嬉しいな」「ヒールがある方がスタイルも良く見えるし、下駄でもヒールが欲しいんです」
お客様のリアルな声で、私たちのものづくり魂に火がつきました。そして、「げた物語」の心地よさはそのままに、ヒールのある下駄を作ろう。そう決意したのです。
「履きやすさ」を追求した、ヒール下駄の誕生
一口にヒールと言っても、ただ高さを出せばいいわけではありません。足が痛くなってしまっては、せっかくの履き心地が台無しになってしまいます。お客様のご要望に応えつつ、どうすれば最高の履き心地を提供できるのか。私たちのヒール下駄開発は、まさに試行錯誤の連続でした。長年培ってきた女性用の靴の中底の知識を活かし、台は「げた物語」よりも少し細身にデザイン。安定感を確保するため、ヒール部分は地面との接地面を広めに設計しました。 ヒールの高さは、お客様の好みに合わせて選べるよう、疲れにくい4.5cmと、すっと歩きやすい6.5cmの2種類をご用意。鼻緒も「げた物語」同様、足をしっかりホールドする太めのデザインにこだわりました。そうして、いくつもの試作を重ね、ようやくたどり着いた理想のカタチ。それが、今ではmizutoriの人気商品となったヒール下駄「hitete(ハイテテ)」です。「hitete」は、お客様の「こんな下駄が欲しい!」という想いから生まれた、私たちにとって特別な一足なのです。 ぜひ一度、「hitete」の履き心地を体験してみませんか?
次回に続く