第七十一話
またカエッてきてね!夏期限定の仲間の話。
水鳥工業には、
夏になると現れる
「仲間」がいます。
もう3、4年に
なるでしょうか。
少し暑くなってきた頃、
工場の庭にある
小さな祠をのぞくと、
お供えしてある榊の葉に、
一匹のカエルが
ちょこんとくっついています。
白っぽい薄いグレーに、
明るい緑色のまだら模様。
ニホンアマガエルの
ように見えます。
アマガエルは、
周りの環境などによって
体の色を変えることも
あるそうです。
そう思って見ると、
祠や榊の中に
溶け込んでいる姿も、
神秘的です。
最初に見つけた時は、
たまたまここに
やってきたのだろうと
思っていました。
ところが、
夏の間は、
わりと頻繁に姿を見かけ、
翌年も、
その次の年も、
暑くなってくると
またひょこっと現れるのです。
この小さな祠に
祀られているのは、
「地の神様」です。
実は水鳥工業には、
大神様、お稲荷様、
火の神様、地の神様、
工場の神様、
恵比寿様、大黒様など、
いろいろな神様が
祀られています。
なぜこんなに
いらっしゃるのかというと、
先々代が
神棚やお札など、
そういったものが
好きな人だったから、
というのが
一番の理由です。
とはいえ、
お迎えしたからには、
きちんとしなくては
なりません。
毎朝お水を替え、
毎月一日には、
塩と生米、榊をお供えして、
日々の感謝と祈りを
捧げています。
そして、
カエルがやってくる
「地の神様」とは、
静岡県の中部・西部で
昔から家々に祀られてきた
「屋敷神」の一つです。
土地や家を守り、
そこに暮らす人々や
家業を見守る神様として、
この地域で
大切にされてきました。
そんな地の神様のところへ
毎年現れるカエル。
これがまた、
なんとも愛らしいのです。
榊のお水を替える時には、
祠の端へ移って、
じっと待っています。
そして、
水替えが終わって
榊を元に戻すと、
カエルもまた定位置へ。
榊のお水を
替えてくれる社員と、
「今日もいましたよ!」
と話すのも、
夏のちょっとした
楽しみになりました。
私も見つけると、
「今日もいるの?」
「毎日暑いね~。」
なんて、
つい話しかけてしまいます。
下駄屋にとって、
夏は
一年でいちばん忙しい時期。
毎日暑い中で、
さまざまな出来事に追われて、
心にゆとりがない日もあります。
そんな時、
地の神様のところを
ふとのぞいて、
いつもの場所に
あのカエルがいると、
ホッと一息、
肩の力が抜けるのです。
何をしてくれる
わけでもありません。
ただそこに、
じっとしているだけ。
でも、
夏になると現れて、
そばにいてくれる。
いつの間にか私にとって、
暑い季節を
一緒に過ごす
仲間のような存在になりました。
カエルは、
日本では昔から
縁起のよい生き物としても
親しまれています。
「無事に帰る」
「福が帰る」
「お金が帰る」。
「カエル」と「帰る」を
かけた言葉遊びから、
旅の安全や幸運、
商売の縁起物としても
大切にされてきました。
海外にも、
カエルを幸運や繁栄、
豊かさなどの象徴として
とらえる文化があるそうです。
土地や家業を見守る
地の神様の祠で、
神前にお供えした榊の葉に
現れる一匹のカエル。

そんなことを考えると、
「もしかして、
地の神様の
化身だったりして……?」
なんて、
つい思ってしまいます。
もちろん、
これは
私の勝手な解釈です。
でも、
見た目の愛らしさだけでなく、
何か神聖な意味を持つ
存在のような気がして、
出会えた日は、
ほんの少し
幸せな気分になります。
このところは
気温が下がってきたせいか、
姿を見かけなくなりました。
姿が見えないと、
蛇に食べられて
しまったのでは?
ついに寿命が
きてしまったのでは?
などと、
心配になってしまいます。
無事に冬眠から目覚めて、
来年の夏もまた、
地の神様の
いつもの場所へ。
私たちの
夏期限定の仲間が、
帰ってくることを
願っています。













