第七十話
mizutoriを支える「好き」のバトン。
来年、
水鳥工業は
創業90年を迎えます。
今のmizutoriの下駄を
つくり始めてからも、
30年以上が経ちました。
でも、
まだまだmizutoriを知らない方の方が、
圧倒的に多いというのが現実です。
静岡の小さな町工場ですから、
それも当然なのかもしれません。
それでも、
世界中の方に
もっと下駄を知っていただきたい、
という目標がある中で、
より多くの方にmizutoriを
知っていただくには
どうしたらいいのだろう。
そんなことを
よく考えます。
そもそも下駄は、
誰もが興味を持つ
というような
商品ではありません。
「下駄」というだけで、
自分には関係ないものとして、
最初から選択肢に入らない方も
たくさんいるでしょう。
下駄だからなのかな。
これが、
「靴」
だったら違うのかな。
そんなことを
考えることもあります。
これまで、
催事で販売している時に、
著名な方が
気に入ってくださったことも
ありました。
テレビに
取材していただけば、
直後には多くの反響を
いただけることもあります。
もちろん、
とてもありがたいことです。
でも、
それをきっかけに、
mizutoriが一気に
世の中に知れ渡る。
そんなことは
もちろん起こりません。
どうしたら、
もっと多くの方に
知っていただけるのだろう。
そんなことを考えながら、
ふと、
お店に来てくださる
お客様のことを
思い返してみました。
「お友達が、
すごく履き心地がいいって
教えてくれたの。」
「着付の先生が
履いていらっしゃるのを見て、
私も欲しくなって。」
「娘がプレゼントしてくれて、
履いてみたら
すっかり気に入っちゃって。
もう一足、
買いに来ました。」
そういえば、
こういうお話を
私たちは何度も
聞かせていただきました。
友人から友人へ。
先生から生徒へ。
家族から家族へ。
誰かがmizutoriを履き、
「これ、いいよ。」
と誰かに伝えてくださる。
その方がまた、
実際に履いて
気に入ってくださる。
そして、
今度はその方が、
別の誰かに
話してくださる。
「ああ、そうか。
mizutoriは、
こうして広がってきたんだ。」
私たちが知らないところで、
mizutoriを好きになってくださった方が、
そっと、
mizutoriのことを
誰かに伝えてくださっていた。
言ってみれば、
皆さんが、
mizutoriの宣伝隊に
なってくださっていたのです。
一人の「好き」が、
次の誰かへ。
その「好き」が、
また次の誰かへ。
まるで、
「好き」のバトンを
一人ずつ
手渡してくださっているようです。
そう考えたら、
どうしたらもっと
多くの方に知っていただけるのか、
そんなことばかり
考えていた自分が、
少し恥ずかしくなりました。
もちろん、
もっと多くの方に
mizutoriを知っていただきたい。
世界中の方に
下駄を履いていただきたい。
その思いは、変わりません。
でも、
広がり方の大きさを
気にしすぎて、
大切なことを見失っては意味がありません。
一人から、
また一人へ。
小さなつながりでも、
長い時間をかけて
つながっていけば、
やがて、
広く、
そして強いものに
なっていく。
30年以上、
mizutoriの下駄を
つくり続けてこられたのも、
そんなたくさんの
「好き」のバトンに、
支えていただいたからに
ほかなりません。
だったら、
私たちがまず
やるべきことは、
とてもシンプルです。
焦らず、
目の前の一人に、
「この下駄、好き。」
そう思っていただける一足を、
これからも
きちんとつくっていくこと。
人の手でつくる
下駄だからこそ、
一足ずつ、
その温もりまで
感じていただけるように。
そして、
受け取ってくださった
「好き」のバトンが、
いつかまた、
次の誰かへ
手渡されていくように。













