第六十九話
父がくれた宿題。
「世界中の方に
もっとげたを知ってほしい。」
父である先代が、
よく口にしていた言葉です。

その言葉を聞くうちに、
私の中にも、
この静岡から
世界中の方々に、
下駄を知っていただきたいという
思いが強くなっていきました。
でも、
いざ海外へ広げることを考えると、
なかなかすんなりとはいきません。
日本人でも
足の形はさまざま。
履き心地の好みも違えば、
木の履物に
まったく興味のない方もいます。
それが海外となれば、
もっと大きなサイズが
必要かもしれない。

道路の状況も、
気候も違う。
お手入れの方法も、
もっとわかりやすく
お伝えする必要があるでしょう。
「海外の展示会に
出てみたら?」
そう言ってくださる方もいます。
もちろん、
興味はあります。
でも、
知っていただくことだけを考えて
動けばいいわけでもありません。
mizutoriの下駄は、
たくさんご注文いただけば、
一足にかける手間を
減らせるというものではありません。
一足ずつ、
人の手でつくることに
変わりはないからです。
もし海外でも
興味を持ってくださる方が増え、
ご注文をいただけるようになった時、
今のお客様へのものづくりを
大切にしながら、
どこまできちんと
お応えしていけるのか。
知っていただいた
その先のことまで、
考えておかなければなりません。
あれも考えなくては。
これも準備しなくては。
そんなことを考えているうちに、
あっという間に
何年も経ってしまいました。
それでも、
できることから
少しずつ始めています。
英語でSNSを発信したり、
こうした読み物にも
英語版をつくったり。
自社のwebshopから
海外へ直接お届けできるようにも
しました。
どんなことが
きっかけでもいい。
まずはmizutoriを
知っていただくために、
小さくても一歩ずつ、
できることを
試しています。
そんな中、
先日とても嬉しいことが
ありました。
静岡からオックスフォードへ
留学されていた女性が、
イタリア人のご友人を連れて
店頭に来てくださったのです。
お話を伺うと、
その女性は留学中、
いつもmizutoriを
履いてくださっていたそうです。
その姿を見ていたご友人は、
「素敵な下駄だな。
私も欲しいな。」
と、ずっと思ってくださっていたのだとか。
そして今回、
旅行で日本を訪れた機会に、
mizutoriへ
足を運んでくださったのです。
その日の夜には
別の県へ移動されるという、
限られた時間の中でのご来店で、
お気に入りの一足を
見つけてくださいました。
これまでにも、
全国各地の催事などで、
日本を旅行中の海外の方と
出会うことがありました。
木でできた履物に、
「硬そう。」
「歩きにくそう。」
そんなイメージを
持っていた方も、
実際にmizutoriを履くと、
「思っていたのと全然違う。」
と驚かれます。
思いがけない履き心地の良さに
喜んでくださり、
一足だけではなく
ご自身用に何足も。
さらに、
ご家族やご友人へのお土産まで
選んでくださる方もいます。

そんな姿を見るたびに、
私は父の言葉を
思い出します。
どうすれば、
世界中の方に
下駄を知っていただけるのか。
その明確な答えはまだありません。
でも今回、
静岡からオックスフォードへ渡った
一足のmizutoriが、
そこで一人の方の目に留まり、
その方が今度は、
日本のmizutoriに会いに来てくださった。
そして、
お気に入りの一足を見つけ、
今度はその下駄が
また海を渡っていく。
人の手で
一つひとつつくっている
mizutoriの下駄。
その温もりは、
ちゃんと人から人へ、
そして国を越えて、
繋がっていくのだと
感じました。
父がくれた宿題に応えるには、
まだまだ時間がかかりそうです。
でも、
考えているだけでは
世界には届きません。
大きな一歩でなくても、
できることを、
一つずつ。
また一足、
mizutoriの下駄が、
海を渡っていくように。













