第六十四話
下駄じゃない何か。
「下駄じゃない何か。」
この言葉が、
随分前から時々、
私の頭の中に浮かびます。
下駄屋なのに、
下駄じゃない何か。
なんだかおかしな話ですよね。
でも、
水鳥工業のこれまでを振り返ると、
実はそれほど
不思議なことでもないのです。
水鳥工業はもともと、
下駄の木地を加工する仕事から
始まりました。
その後、
時代の変化とともに、
サンダルやシューズの中底加工へ。
そして現在は、
mizutoriの下駄を
製造、販売しています。
ずっと履物に関わってはいますが、
その時代、その時代で、
自分たちにできることを探しながら、
少しずつ仕事の形を
変えてきた会社なのです。
世の中が変われば、
人が必要とするものも
変わっていきます。
だから私も、
今の仕事を続けながら、
いつもその先のことを
考えています。
mizutoriが
今の形の下駄をつくり始めてから、
三十年以上が経ちました。
ありがたいことに、
長く愛用してくださる方も増え、
今も新しくmizutoriを
知ってくださる方がいます。
それでも私は、
「この下駄の次は、
何をしよう。」
と考えてしまうのです。
とはいえ、
私たちは履物づくり以外のことを
ほとんど知りません。
私個人で言えば、
昔、美容師をしていたので、
髪を切ることくらいなら……
と言いたいところですが、
さすがにブランクが
長すぎました。
実は、
会社を継ぐ決断をする前、
私は実家の一角を美容室にして、
のんびり気ままに
美容師をやろうと思っていました。
その計画は、
人生のまさかの展開によって
実現することはありませんでした。
そして、
美容室になるはずだったその場所は、
今、
mizutoriのギャラリーになっています。
古い木造の家をリフォームした、
天井には何本もの丸太が見え、
ヒノキの床が広がる空間です。
ここで、
何か面白いことが
できないだろうか。
自分だけの下駄をデザインする
ワークショップ。
いや、
思い切って下駄とは
まったく関係のない、
料理教室だって
面白いかもしれない。
そんなことを考えていると、
あれもいい、
これもやってみたいと、
アイデアが
ぐるぐる巡ります。
下駄かもしれないし、
下駄じゃないかもしれない。
そんな時、
ふと思い出した言葉があります。
十年以上前、
水鳥工業のビジョンとして掲げた、
「自由な発想と楽しむ心でチャレンジする
下駄発祥のグローバルブランド」
という言葉です。
正直、
当時の私は、
この「下駄発祥」という言葉の意味を、
自分でも
よく分かっていませんでした。
でも今になって、
少しずつ自分の中で
形になってきたような気がします。
下駄から始まって、
その先にある何かへ。
下駄でなくてもいい。
もちろん、
下駄でもいい。
大切なのは、
自由な発想と
楽しむ心を忘れず、
目の前に現れた
小さなチャンスをつかんでいくこと。
それこそが、
私たちの企業理念
「Get a Chance」
なのだと思います。
この先、
水鳥工業が何をつくり、
mizutoriが
どんなブランドになっていくのか。
私にもまだ分かりません。
「このままでいいのだろうか。」
という危機感はあります。
でも、
その危機感を包み込むように、
「次は何ができるだろう。」
というワクワクもあるのです。
下駄の木地から始まった
小さな会社が、
中底をつくり、
mizutoriの下駄をつくり、
そして、その次へ。
まだ名前もない、
「下駄じゃない何か。」
それがいつか、
水鳥工業の
新しい物語の始まりになったら。
そんな未来を想像しながら、
今日もまた、
「次は何をしよう。」
と考えています。
もし皆さんにも、
「mizutoriがこんなことをしたら面白そう。」
というアイデアがあったら、
ぜひ聞かせてくださいね。













