第六十一話

「mizutori」って、どんな意味?


店頭に立っていると

時々こんなご質問をいただきます。

「mizutoriって、
どんな意味でつけたんですか?」

意味も何も、

私の名字なんです。

そうお話しすると、

「えっ、そうなんですか!」

と驚かれる方が少なくありません。

今では「mizutori」という名前も
少しずつ知っていただけるようになりましたが、

実は最初から
ブランド名として考えていたわけではありません。

下駄づくりを始めた頃、

当時の水鳥工業は、
サンダルやシューズの中底をつくる仕事が
中心でした。

そこで、
下駄部門を分けるためにつけた名前が、

「和工房みずとり」

でした。

それから年月が経ち、

「日本だけでなく、
世界にも下駄を広めたい。」

そんな思いが少しずつ強くなり、

その時にブランド名として選んだのが、

アルファベットの

「mizutori」

です。

 

「水鳥」という名字は、
全国的にあまり多くありません。

ですから、
名字から付けていると
気づかないお客様も多いのです。

静岡でも珍しい名字ですが、

もともとは
岐阜県の地名に由来すると言われていて、

岐阜や愛知には
比較的多いそうです。

そして、

もう一つ、

こんな説も聞いたことがあります。

昔、

殿様が馬に乗って
安倍川を渡る途中、

誤って刀を
川へ落としてしまいました。

その時、

同行していた足軽だった
ご先祖様が川へ飛び込み、

刀を拾い上げたそうです。

その姿を見た殿様が、

「お前の泳ぎは
まるで水鳥のようであった。」

と言って、

褒美として

「水鳥」という名字を
授けたのだとか。

このお話が
本当かどうかはわかりません。

でも私は、

こちらの物語の方が
好きなんです。

実は、
先代社長も泳ぎが得意で、

本人曰く、

「安倍川の河童」

の異名を持っていたそうです。

水鳥から河童になってしまいましたが、

泳ぎが得意なDNAは
ちゃんとご先祖様から
受け継がれているのかもしれません。

ですから私は、

この説を結構信じています。

そして私は、

この名字そのものも
とても気に入っています。

珍しいということもありますが、

響きも好きで、

鶴の家紋も
名字によく合っていて大好きでした。

中学生くらいの頃には、

「結婚しても、
この名字のままでいたいな。」

と思っていたほどでした。

その頃はもちろん、

家業を継ぐことになるなんて、
全く想像もしていませんでした。

その数十年後、

まさかの展開で
会社を引き継ぐことが決まり、

そのまたまさかで、
国際結婚。

結果として今でも
「水鳥」のままです。

今ではその名字が
ブランド名にもなりました。

すべては偶然ですが、

何か不思議なご縁を
感じずにはいられません。

最近では店舗で、

「あっ、mizutoriだ!」

「私、mizutori持ってるよ。」

「mizutori、なかなかいいよ。」

そんな声を耳にすることも
増えてきました。

最初は、

自分の名字が
ブランド名として呼ばれていることに、

少し違和感や
照れくささもありました。

でも今は、

皆さんが親しみを持って呼んでくださる
その一言一言が、

本当にありがたく感じています。

もし、

あの刀のお話が本当だったとしたら、

「水鳥」という名字を授けてくださった
お殿様も、

まさか何百年も後に、

その名前が下駄のブランドとして、
多くの方に親しまれるようになるなんて、

思ってもいなかったでしょう。

そう考えると、

少し可笑しくて、

そして、

とても大切にしたい名前だなと思うのです。