第四十話
モントリオールへの配達

下駄をご注文いただくと、
通常は配送業者に託して皆さまの元へお届けしています。

これは、どこの会社でも同じだと思います。

けれど一度だけ、
特別な配達をしたことがあります。

今日は、そんな「お届け」にまつわる、忘れられないエピソードを。


ありがたいことに、
mizutoriには海外にもご愛用者さまがいらっしゃいます。

ある日、カナダにお住まいの女性から、
「とても気に入って履いているので、またオーダーしたいのですが…」
というご連絡をいただきました。

海の向こうから届くそのような言葉は、
作り手である私たちにとっての励みであり、
本当にうれしいものです。

その方は、
カナダ・ケベック州モントリオールの美術館にお勤めとのことでした。

ちょうどその頃、
弊社専務が家族とともにカナダへ帰省する予定がありました。
専務はケベック出身です。

「国際郵便で送るより、直接届けたほうが早いかもしれないね。」

専務の発したその言葉を、最初は冗談だと思って聞いていました。
けれど専務の表情を見て、すぐに本気の提案だと分かりました。

前代未聞の発想です。

正直に言えば、
本当に大丈夫だろうかという思いもありました。

距離のこと。
時間のこと。
ご迷惑にならないだろうかということ。

少し迷いました。

けれどそれでも、
迷ったら楽しそうな方を選ぶ。

気づけば、
気持ちは直接お届けする方に傾いていました。

こうした部分が、私たちらしさなのかもしれません。

こうして、
“モントリオールへの配達”が決まりました。


とはいえ、カナダは広大です。

同じケベック州とはいっても、
日本の感覚で「じゃあお届けに行きます」と
軽く言える距離ではありません。

本当にたどり着けるのだろうか。

直接お届けすることを決めたはずなのに、
日が近づくにつれ、
少しずつ不安を感じ始めました。

実際、専務の実家とモントリオールはかなり離れていました。

それでも幸いなことに、
空港から美術館まではそれほど遠くなく、
大きなトラブルもなく到着することができました。

目の前に現れたのは、
想像以上に立派な美術館。

「下駄の配達です」と言って、
気軽に入ってよいものか、
緊張しながら入り口の扉を開けました。

事情を説明すると、
スタッフの方が丁寧に取り次いでくださり、
無事にご依頼のお客様へとつないでくださいました。

現れたのは、
とてもスタイリッシュな女性。

なんとご依頼主は
この美術館の館長さんでした。

彼女は静岡から直接届けに来たことを心から喜んでくださり、

「本当に気に入って愛用しています。」

と、温かい言葉をかけてくださいました。

日頃から芸術に携わるその道のプロの方に
そのように言っていただけたことが、
とてもうれしく、誇らしく思いました。

長い道のりの疲れも、不安も、
その一言で、すっと飛んでいった気がしました。

振り返れば、
少し無茶な計画だったのかもしれません。

けれど、
直接笑顔に出会い、
自分たちの言葉で感謝を伝えられたあの時間は、
挑戦するに値する出来事だったと思います。

私たちはときどき、
スタンダードから少し外れた選択をします。

それはきっと、
お客様にとっても、
そして私たち自身にとっても、
良い意味での驚きや感動につながると信じているからです。

もちろん、
ご迷惑をおかけしないことを前提に。

これからも、
ときには枠を少し越えながら、
mizutoriらしい方法で、
心を込めて、商品とともに想いもお届けしていきたいと思っています。



次回に続く