第三十八話
つい、声をかけたくなる瞬間



街を歩いていると、

ときどき、mizutoriの下駄を履いている方を

見かけることがあります。

 

そんな時、

つい、声をかけたくなってしまいます。

 

実際に、

声をかけてしまったことも、

何度もあります。

 

たいていは、少し驚かれます。

でも、地元・静岡では、

そのあと履き心地の話になったり、

どこで買ってくださったのかを教えていただいたり、

和やかな会話になることが多く、

とても嬉しい時間になります。



一度、東京・日本橋のコンビニで、

<ひのきのはきもの>を履いている方を

見かけたことがありました。

 

20代くらいの男性で、

とてもお洒落に履いてくださっていて、

思わず嬉しくなりました。

 

お会計のあと、

思い切って声をかけたのですが——

その方は、後ずさりされるほど

驚かれてしまいました。

 

今思えば、当然かもしれません。

 

履いている履物を作っている人に、

突然声をかけられることなんて、

そうそうありません。

 

嬉しくて、

ただ一言、

「ありがとうございます」

とお伝えしたかっただけでしたが、

自分の気持ちを優先してしまったことを、

申し訳なく思い、反省しました。

 

それ以来、

街で見かけても、

声をかけるのは少しだけ控えています。

 

話しかけたい気持ちを抑えて、

心の中で

「ありがとうございます」

と、つぶやくようになりました。

 

それでも、

地元では、

時々、やっぱり声をかけてしまいます。

 

それくらい、

嬉しいのです。

 

私たちは、

商品をお届けしたあと、

その下駄がどんなふうに履かれているのかを

直接見る機会は、

ほとんどありません。

 

だからこそ、

日常の中で、

何気なく履いてくださっている姿。

 

ファッションの一部として

楽しんでくださっている姿。

 

特別な日の履物として

選んでくださっている姿。

 

そういう瞬間に出会うと、

いてもたってもいられなくなります。

 

何を隠そう、

つい昨日も、

街でmizutoriの下駄の音を聞き、

思わず振り向いてしまいました。

 

和洋ミックスに畳縁の下駄を合わせた素敵な装いでした。

 

声をかけようとしたのですが、

同伴者に止められて、断念しました。

 

下駄の音から、

そろそろ底ゴムの交換をされた方が

良いかもしれないと感じ、

お礼と一緒にお伝えしたかったのですが……。

 

もう、

完全なる職業病ですね。

 

作り手として、

世に出した下駄のその後は、

いつもどこかで気になっています。

 

ですから、

道で突然

「その下駄を作っている者です!」と、

声をかけられることがあっても、

どうか怖がらないでください。

 

履き心地の感想を、

ほんの一言でも

お聞かせいただけたら、

とても嬉しいです。

 

また、

「こんなふうに履いていますよ」

というお写真やメッセージも、

いつでもお待ちしています。

 

履いてくださっている皆さまに、

今日も心の中で、

そっと「ありがとうございます」を送ります。




次回に続く