第三十三話
つくる、リズム

 

朝、工房に入ると、

それぞれが自分の持ち場につき、

いつもの道具を手に取ります。

 


すぐに作業は始められる。

けれど、冬休みの前とは、少し違う。

 

連休明け特有の、あの感覚。

 

下駄づくりも同じ。

力の加減や、

間の取り方を確かめながら、

手が、少しずつ

仕事のリズムに戻っていきます。

 

長期の休みが明けると、

体を元のテンポに戻すまでに、

どうしても少し時間がかかります。

頭では分かっていても、

手や体は正直で、

無理をすれば、そのズレは仕上がりに表れてしまいます。

 

下駄づくりは、

丁寧さとスピード感の、

どちらも欠かせない仕事です。

 

丁寧に向き合うことは大切です。

けれど、丁寧すぎることで

全体の流れが滞ってしまえば、

それは必ずしも良いこととは言えません。

 

一方で、
スピードを優先しすぎて
仕上がりの質を落とすことは、
決してできません。

 

その場で重ねていく微調整と、
絶妙なバランスの積み重ねが、
一足一足の出来を左右します。

 

私たちが日々探しているのは、

「ちょうどいい加減」です。

 

急がず、

立ち止まりすぎず、

同じテンポで、

同じ質を保ちながら、

一足ずつ仕上げていくこと。

 

人の手で行う仕事だからこそ、

作り手の心や体の状態に、

少なからず影響を受けてしまうこともあります。

手作りの商品には、

良くも悪くも、

その日の作り手の状態が

映し出されてしまうものです。

 

だからこそ、

ちょうど良いリズムを保つことが、

何より大切になります。

 

ものづくりには、

どうしても時間がかかります。

そして、時間はそのまま

コストにもつながります。

 

近年、

下駄づくりに関わる材料や環境も、

例外なく変化しています。

私たちの身の回りでも、

少しずつ、

当たり前だったものが

当たり前ではなくなってきました。

 

それでも、

できるだけ価格を変えずに、

これまでと同じように

商品をお届けし続けたい。

 

そこには、

作り手それぞれの

見えない工夫や努力があります。

 

手の動かし方、

段取りの組み方、

無駄をつくらないための

小さな改善の積み重ね。

 

派手さはありませんが、

そうした日々の工夫こそが、

ものづくりを支えています。

 

いつまで踏ん張れるかは、

わかりません。

 

それでも、

心地の良い下駄を届け続けるために、

私たちは今日も、

自分たちの力を信じて

手を動かしています。

 

特別なことはしていません。

ただ、

つくる、というリズムを崩さないこと。

 

そのリズムが、
今日も、皆さまの元へ向かう
一足を支えています。




次回に続く