第二十九話
干支下駄、つくっています。 — 遊び心から生まれる、年に一度のお楽しみ
毎年この季節になると、工房の空気がどこかそわそわしはじめます。
来年の干支をテーマにした「干支下駄」の提出期限が迫っているからです。

mizutoriでは、ここ数年、お正月展示に合わせて毎年干支下駄をつくっています。
実用性よりも“遊び心”を大切にしたこの企画は、
普段のものづくりとは少し違う、自由でのびやかな創作の時間です。
干支の動物がデザインされた生地を探す人、
台に大胆なペイントを施す人、
チャームを縫い付けたり、フェイクファーを貼ってみる人。
寅年には、台いっぱいに“虎の背骨からお腹まで”の毛色を手描きしたり、
卯年には“しっぽ”をイメージしたふわふわのポンポンを付けたり——
子どもの頃の図工の時間を思い出すような、思い思いの挑戦が続きます。
もともとは、社員の“発想力・開発力を育てる”ための社内企画として始まりました。
ところが、毎年続けるうちにすっかり定番化し、夏を過ぎた頃には
「そろそろ考えないとね」
と、来年のデザインを思案しはじめる人も出てきました。
完成した干支下駄は展示期間が終わると、製作した社員に“参加賞”として進呈しますが、
製作者の希望があれば、そのまま店頭に並ぶこともあります。
ご自身の干支に思い入れがあってグッズを集めている方や、
一点物のデザインを探している方も多く、
意外なことに、思い切ったデザインのものほど手に取っていただくことが多いのです。
干支という限られたテーマの中で、mizutoriらしい表現とは何か。
社員一人ひとりが素材選びから制作まで自由に向き合うことで、
下駄づくりへの視野も、遊び心も、自然と広がっていきます。
来年は午年。
どんなかたちで下駄に表現されるだろう——。
まだ見ぬ一足を思うだけで、わくわくしてきます。
そしていつかは、この企画を社外へも開いてみたい。
お客様や外部のクリエイターの方と一緒に
「干支下駄コンテスト」を開くのも、楽しそうですよね。
そんな未来への構想も、少しずつ芽を伸ばしています。
干支下駄は、mizutoriの“遊び心”と“ものづくりの余白”から生まれる一足。
新しい一年がすこやかで、軽やかで、
ちょっとだけ楽しいものになりますように——。
今も、工房では静かに制作が進んでいます。
次回に続く