第二十七話
2026年 新柄決定!新しい鼻緒柄が生まれるまで



下駄と向き合う毎日のなかで、

一年のうちもっとも悩む時期があります。

それは、「来年の鼻緒」を決めるとき。

 

mizutoriの下駄には、100種類を超えるバリエーションがありますが、

そのうち毎年1520種類ほどは、新しい柄へ入れ替えています。

貴重な生地は材料がなくなると同時に販売終了となることも多く、

個性的なデザインは1年限定で挑戦してみることもあります。

 

次の一年をともに歩む鼻緒を選ぶ作業は、

毎回、果てしのない旅のようです。

 

■膨大な布の中から“たったひとつ”を選ぶということ

 

お客様から

「どれがいいか迷ってしまいます」

とよく言われますが──

 

実はその前段階で、

作り手の私たちも同じように、

いえ、それ以上に迷っています。

 

なぜなら、鼻緒の候補となる生地は膨大で、

一つひとつが魅力的だからです。

 

選ぶときの基準はいくつかあります。

 

・お客様の「あったらいいな」という声

・ちょっと大胆な“チャレンジ枠”

・染め、織り、傘、畳、テキスタイルなど

下駄以外のものづくりをされている方々の世界を届けたいという想い

 

mizutoriにとって鼻緒を選ぶことは、

“誰かのものづくりの物語を継ぐこと”でもあるのです。

有名か無名かは関係ありません。

生地の背景にある手の仕事、

その美しさに触れたときの感動を、

下駄を通して共有したいと思っています。

 

■布を“鼻緒のかたち”にした瞬間に、すべてが変わる

 

選び抜いた布は、一度“鼻緒のかたち”に仕立てます。

 

この段階で大きく表情が変わるため、

そこからがまた長い道のりです。

 

・裏地の色

・前つぼの色

・鼻緒として表に出る“5cmの世界

  その小さな面積の中で、柄の魅力をどう伝えるか。

 

ほんの少しの差で印象が変わってしまい、

何度もやり直しを重ねます。

 

どれほど美しい図案でも、

鼻緒という狭い面積の中で魅力を表現できなければ、

採用を諦めるしかありません。

 

さらに、

織りがほつれやすいもの、

肌触りが硬いものは採用できません。

美しさと実用性の両立は、

長く履いていただくために欠かせない条件だからです。

 

■最後に、下駄台との組み合わせ

 

鼻緒が決まったら、

次は各種の下駄台に合わせてみます。

 

黒が映える柄、

ナチュラルな木目が似合う柄、

ヒールの高さによって見え方が変わる柄──。

 

どの台に合わせると一番魅力的か、

正解のない試行錯誤が続きます。

 

この過程では社内投票をしたり、

販売チームに意見を求めたり、

関係各所へアンケートをお願いすることもあります。

 

多くの視点で見てもらうのは、

mizutoriの世界を偏らせないため。

 

年代も、ファッションも、好みも。

いろいろな方に寄り添えるように。

 

正直に言えば──

自分の好みではない柄が選ばれることもあります。

けれど、それを「好き」と言ってくださる方が

必ずいるという確信とともに、

私たちは毎年の新作を世に送り出しています。

 

2026年の新柄も、この迷いの旅の先にあります

 

そうして今年も、

長い迷いの時間を経て、

2026年の新しい鼻緒が決まりました。

 

発売まで、あとひと月ほど。

 

その裏側にあった揺れや悩み、

生地との出会いや、職人の想い。

 

そんな目に見えない物語も思い浮かべながら、
発売の日を楽しみにお待ちいただけたら幸いです。




次回に続く