第二十七話
「冬に、下駄を履くということ」— 下駄屋の葛藤と、これからの可能性


冬が近づくと、足もとは自然とあたたかさを求める季節になります。
厚手の靴下、しっかりしたブーツ、ふわふわのルームシューズ——

下駄には木の心地よさがあり、
足裏に伝わる木のぬくもりが好きだと言ってくださる方も多いのですが、
やはり冬の冷え込みを考えると、素直におすすめしづらい時期でもあります。

 mizutoriでも、冬に下駄を楽しんでもらえる方法を、
長いあいだ模索してきました。

実は過去に、冬仕様の下駄づくりへ
いくつもの挑戦をしてきたことがあります。

ひとつは、木地にしっとりとしたスエードを合わせた
サボタイプの冬下駄。

冬の装いに自然に溶け込む一足として、静かな人気がありました。


 

そしてもうひとつが、

足を入れた瞬間の包み込まれるフィット感とあたたかさを併せ持つ
ふかふかのムートンをたっぷり使ったサボタイプ。



履いた方の満足度は非常に高く、
「これなら冬でもmizutoriが履ける」とのお声も多くいただきました。

その他にも、鼻緒をニットで編んだり、
天板に保温性のあるクッションを貼ったり、
フェイクファーを使って見た目にもあたたかさを感じられる工夫をしたり、
思い浮かぶままに、いろいろな試作を繰り返してきました。

しかし——

冬はあたたかいブーツや防寒性の高い靴が数多くある季節。

どんなに工夫を重ねても、
“冬に下駄を選ぶ” という方は圧倒的に少ないという現実があり、
これらのモデルはラインナップに残ることはありませんでした。

それでも、冬に心地よく履ける下駄づくりをあきらめたわけではありません。

木の温もりは、季節を問わず足もとにやさしいもの。

そして、冬だからこそ感じられる木製品のあたたかな魅力も確かにあります。


ふと、考えることがあります。

もし、冬に下駄を楽しむ新しい形があるとしたら——

どんな一足が生まれるのでしょうか。

 

たとえば—— 

・足をすっぽり包む、あたたかなデザイン

・靴下と合わせやすい、冬専用のフォルム

・家の中で履ける“冬の室内下駄”

・ムートンモデルを、もっと進化させた復刻版

・木を使わなくても“木を感じる” まったく新しい発想の履物 など…… 


そんな、まだ形のない可能性が、
mizutoriの未来のどこかに静かに眠っている気がしています。


答えは、まだはっきり見えていません。

けれど、mizutoriの下駄や履物を愛してくださる皆さまそれぞれが
心のどこかでふと浮かべる
「こんな冬下駄があったらいいな」という小さな期待が、
未来への灯りをそっとともしてくれるように思うのです。 

mizutoriはこれからも、
季節とともに歩みながら、
木の履物の新しい可能性を静かに探し続けていきます。





次回に続く