第十八話
漆塗り下駄の誕生

皆さんは、mizutoriの商品にジュエリーのように美しい「漆塗りの下駄」があることをご存じでしょうか?
これは会津若松市にある、老舗の漆メーカー・坂本乙造商店とのコラボレーション
によって生まれた、私たちにとってとても特別な一足です。
今回は、その誕生秘話をお届けします。



出会い

坂本乙造商店は1900年(明治33年)に創業。
漆精製から工芸品、ファッション小物まで幅広く手がけ、伝統の技を現代の暮らしに活かし続けています。

私たちが坂本さんと出会ったのは東京の展示会でした。
毎年出店ブースが近く、顔を合わせるうちに自然と交流が生まれました。

展示会で目にした自社ブランド「坂本これくしょん」のアクセサリー――
木を土台にした軽やかさと、漆ならではの深く輝く色合い。
どれも洗練されていて、思わず手に取り見入ってしまうほどでした。

多彩なデザインと繊細な塗りの技術に、私たちはすっかり魅了され、「坂本これくしょん」の大ファンになっていったのです。



憧れから共創へ

そんな尊敬と憧れの気持ちが大きくなるにつれ、
mizutoriの下駄にも、この美しい漆を施していただけたら…」という想いが胸に芽生えました。

けれど、それを口に出すことはなかなかできませんでした。
どう思われるだろう、断られてしまったらどうしよう…
そんな迷いや不安にとらわれながら、月日は過ぎていったのです。

それでも気持ちは年々高まり、ついに抑えきれなくなって会津を訪ねることにしました。
勇気を出して胸の内をお話しすると、坂本社長は静かに
売り先のイメージはありますか?」と尋ねられました。

経営者として当然のご質問でした。
けれど当時の私たちは、ただ「坂本さんと一緒にものづくりがしたい」という一心で、その先の具体的なプランを持ってはいなかったのです。

恥ずかしさと未熟さを痛感しながらも、この想いだけは伝えたい、と必死にこうお伝えしました。
とにかくお客様を驚かせたいんです。まだ誰も見たことがない、ジュエリーのような下駄を坂本さんと一緒に作りたいです。

そんな私たちの拙さも含めて理解してくださった坂本社長は、おだやかにこう言ってくださいました。
わかったよ。mizutoriのフラッグシップになるような商品を作ろう。任せてね。

今振り返っても、この無謀ともいえるお願いを広いお心で受け入れてくださったことには感謝しかありません。



宝石のような下駄

その後、私たちは下駄の台を会津に送り、サンプルが届く日を心待ちにしました。

そして迎えた日―― 箱を開けた瞬間、そこに現れたのは想像をはるかに超える一足でした。
光の角度によって色合いが変化し、飾っておくだけでも心が弾むほど。
鼻緒には蒔絵が施され、漆の奥深い美しさと匠の技が凝縮されていました。

履くのがもったいない」と思えるほどの存在感。
まさに宝石のように輝く下駄が誕生したのです。

坂本社長が「この技術はうちにしかできないから、模倣品の心配はない」と胸を張った言葉通り、唯一無二の逸品でした。


特別な一足として

こうして生まれた漆塗り下駄は、単なる履物を超えて、それぞれのお客様の人生の大切な場面に寄り添う存在となりました。


舞台に立つ方にとっては、光を浴びて輝くステージ衣装の一部に。

宿泊施設では、客室に置かれるだけで空間の品格を高める装飾品に。

ある方にとっては、大切な人への一生に一度の贈り物に。

またある方にとっては、自分自身を励ますためのご褒美の一足に。


その役割は一人ひとり異なりますが、それぞれのお客様にとっての、特別な存在となっています。

まるで宝石箱を開けたときのようなあの感動を、
これからも多くのお客様と分かち合えることを楽しみにしています。





次回に続く