第十七話
有名デザイナーとの奇跡の出会い
「Leading to new encounters(新たな出会いへと導く)」
これはmizutori英語版のブランドコンセプトです。
その言葉を象徴する出来事が、20年以上前にありました。
当時、先代社長は東京の百貨店で夏恒例の実演販売を行っていました。
ある日、mizutoriの売場に一人の女性が立ち止まり、じっと商品を見つめたのち、こう声をかけてきました。
「おじさん、下駄作れる?」
顔を上げた先代の目に飛び込んできたのは、洗練された雰囲気のある女性。その人物は、世界的に有名なブライダルファッションデザイナーでした。
彼女の依頼は、ファッションショーでモデルが着用する特別な下駄。
シックな黒塗りの台に、鼻緒は豪華な金襴の帯地を使ったものでした。
ファッションの舞台とは無縁だった“下駄屋のおじさん”にとって、まさに想像を超える依頼です。
内心は驚きつつも、先代はいつもの調子で「できるよ!」と即答。こうして大役を引き受けることになり、知らせを聞いた工場は嬉しさとプレッシャーで大騒ぎになりました。
送られてきた美しい帯地を前に、スタッフ一同はブライダルの華やかなドレスにふさわしい下駄を完成させようと、いつも以上に心を込めて製造に取り組みました。
特に工夫を凝らしたのは底材です。
ステージでモデルが歩く際、木製履物特有の音が響いてショーの妨げにならないよう、通常よりクッション性の高い厚めのEVA素材を採用。
こうして静かで快適に歩ける特別仕様の下駄が仕上がりました。
完成した下駄は、実際にファッションショーのランウェイを歩く衣装のひとつとして使用されました。
ショーには先代も招待され、mizutoriの下駄が世界的な舞台に立つ瞬間を、直接目にすることができたのです。
下駄がもたらしてくれた夢のようなご縁。
この出来事は、先代にとっての自慢話のひとつであると同時に、「ご縁はどこでどう繋がるかわからない」ということを強く感じさせる象徴的なエピソードでもありました。
mizutoriの下駄を作り始めてから、思いがけないご縁に何度も恵まれてきました。
私たちが掲げる 「Leading to new encounters」 には、そんな実体験とともに、mizutoriを履いてお出かけになる皆さまにも、新しいご縁やワクワクする体験が訪れますように――そんな願いが込められています。
次回に続く