第二十一話
下駄は秋冬には履けないの?

販売に立っていると、お客様から

「下駄って夏だけでしょ?」
「寒くなってきたらどう履けばいいの?」


というご質問をよくいただきます。

 また、小さなお子さんにお母様が

「これはお祭りの履物だよ」

と伝えている姿を目にすることもあります。 

mizutoriの工場がある静岡市では、山間部を除いて雪が降ることはめったにありません。
そのため、足袋ソックスなどを合わせれば一年を通して下駄を履くこともできます。 

私たちは日頃から下駄を履くことが多いため、
「下駄は限られた場面の履物」という感覚はあまりありません。

お客様のお声を聞くたびに、
「なるほど、一般的なイメージはそうなんだな」と感じます。

下駄=夏のものというイメージは現代特有のものかもしれません。
では、かつて下駄が日常履きだった時代の人々は寒い季節をどのように過ごしていたのでしょうか?



実は、江戸時代から昭和初期にかけて、下駄は一年中の普段履きでした。
草履やわらじと並んで、庶民の暮らしには欠かせない履物。
季節ごとに靴を替えるようになったのは、近代以降のことです。

冬場には、厚手の足袋や綿入れ足袋を重ね履きして足元を温めたり、藁や布を詰めて保温性を高める工夫もされていました。
足袋は、現代でいう「靴下+インナーソックス」のような存在だったのです。

さらに、下駄そのものにも冬向きの仕様がありました。
い草を貼って足当たりをやわらげた「畳表下駄」、
台をあぶって冷たくなりにくくした「焼下駄」、
そして防水性・断熱性に優れた「漆塗り下駄」。

雪深い地域でも、漆下駄と厚手の足袋を組み合わせて冬を過ごしていたという記録も残っています。

当時は、家の中も外も温度差が今ほどなく、生活の多くが歩き中心。
日常的によく体を動かして生活していたため、足先が冷えにくかったという背景もありました。

つまり、昔の人々にとって下駄は「夏の履物」ではなく、「一年中の相棒」だったのです。


 
昔とは環境も体質も違う現代の私たちでも、少し工夫をすれば、同じように秋冬でも下駄を楽しめます。

例えば、厚手の足袋ソックスやウール素材の靴下を合わせてみたり、落ち着いた色味のサボタイプや、艶やかな黒塗り台の下駄を選べば、秋の街にも自然に溶け込みます。

コーディネート例としては、

● ニットワンピース×レギンス+ウール足袋靴下×黒塗り下駄
● ざっくりセーター×デニム×ナチュラル木目の下駄
● コート×もこもこルーズソックス+サボタイプ

など、季節感を取り入れながら足元で遊ぶのもおすすめです。

mizutoriの下駄は木の温もりがあり、履くほどに足になじんでいきます。
秋冬の柔らかい日差しや乾いた空気の中でも、自然の質感がいっそう引き立ちます。


 
もちろん、雪が積もる地域や極端に冷え込む場所では、無理に履くのはおすすめできません。
けれど、環境が許す地域では、秋から初冬にかけての装いに日本のアイデンティティをプラスできる特別なアイテムになります。

 昔の人がそうしていたように、季節を感じながら「木の履物」と暮らす心地よさを、今の生活の中でも味わっていただけたら嬉しいです。

皆さんの秋冬コーデのアイデアも、ぜひ教えてください。




次回に続く